離婚した前妻との間に子がいて、現在の妻との間にも子がいる場合、「自分の財産は現在の妻と現在の妻との子に相続させたい」「前妻の子と現在の家族にはできるだけ直接連絡を取らせたくない」と考えることがあります。
この場合に重要なのは、前妻自身は通常は相続人ではありませんが、前妻との間の実子は、離婚後も現在の妻との子と同じく法律上の子であり、原則として相続人になるという点です。
そのため、「全財産を現在の妻と現在の妻との子に相続させる」という遺言書を作っても、前妻の子が法律上の相続人であること自体は変わりません。遺留分の問題だけでなく、自筆証書遺言を自宅で保管した場合の検認や、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合の通知についても、前妻の子が関係する可能性があります。
この記事では、前妻の子と現在の家族をできるだけ直接やり取りさせたくない場合を想定し、自宅保管の自筆証書遺言、法務局の自筆証書遺言書保管制度、公正証書遺言の違い、家庭裁判所の検認時の通知、遺言執行者を指定する場合の注意点まで整理します。
前妻の子は離婚後も相続人になる
まず、離婚すると元配偶者である前妻は原則として相続人ではなくなります。しかし、前妻との間に生まれた実子との親子関係は離婚によってなくなるわけではありません。
そのため、死亡時に現在の妻、前妻との子1人、現在の妻との子1人がいる場合、基本的には現在の妻と2人の子が法定相続人になります。
例えば財産が3,000万円あり、「すべての財産を現在の妻と現在の妻との子へ相続させる」と遺言したとしても、前妻の子が「最初から相続人ではなかったこと」になるわけではありません。
遺言によって実際に誰へ財産を承継させるかを指定することはできますが、前妻の子には遺留分が認められる可能性があり、一定期間内に遺留分侵害額請求をされた場合には金銭で対応する問題が生じます。
自宅保管の自筆証書遺言は原則として家庭裁判所の「検認」が必要
自分で書いた自筆証書遺言を自宅や貸金庫などで保管する場合、遺言者が死亡した後、その遺言書を保管していた人または発見した相続人は、原則として家庭裁判所へ遺言書を提出し、「検認」を申し立てる必要があります。
裁判所によると、検認とは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名、訂正状態などを明確にし、後日の偽造や変造を防止するための手続です。遺言書が有効か無効かを決める裁判ではありません。[参照:裁判所 遺言書の検認]
つまり、自宅保管の自筆証書遺言には、死亡後に家庭裁判所を介する手続が一つ増えることになります。
検認では前妻の子にも裁判所から通知される
前妻の子と現在の家族を接触させたくない場合、特に重要なのがこの点です。
自宅保管した自筆証書遺言について検認を申し立てると、家庭裁判所は相続人に検認期日を通知します。前妻の子が法律上の相続人である以上、原則として前妻の子も通知の対象になります。
裁判所の公式案内でも、「検認の申立てがあると、相続人に対し、裁判所から検認期日の通知をします」と明記されています。また、申立てには原則として相続人全員の戸籍謄本などが必要です。[参照:裁判所]
家事事件手続規則でも、裁判所書記官は申立人および相続人に対して遺言書の検認期日を通知しなければならないと定められています。したがって、遺言書に「前妻の子には連絡しない」などと記載して、家庭裁判所からの通知を止めることはできません。[参照:裁判所 家事事件手続規則]
前妻の子が検認へ出席する義務まではない
通知されることと、検認の場で現在の妻や現在の妻との子と必ず顔を合わせることは同じではありません。
裁判所は、申立人以外の相続人について、検認期日に出席するかどうかは本人の判断であり、相続人全員がそろわなくても検認手続を行うと案内しています。
したがって、前妻の子には検認期日の通知が届きますが、前妻の子が必ず家庭裁判所へ出席しなければならないわけではありません。[参照:裁判所]
ただし、「通知そのものを前妻の子へ届けたくない」という目的であれば、自宅保管の自筆証書遺言は適していないことになります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度なら検認は不要
自筆証書遺言を作成しつつ検認を避けたい場合に利用できるのが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。
この制度では、本人が作成した自筆証書遺言を法務局の遺言書保管所へ預けます。法務局で保管されている遺言書については、遺言者死亡後の家庭裁判所による検認が不要です。[参照:法務省 自筆証書遺言書保管制度]
また、原本が法務局で保管されるため、遺言書を紛失したり、誰かに廃棄・改ざんされたりするリスクを減らせるというメリットがあります。
そのため、「自宅保管か法務局保管か」という二択で考えれば、少なくとも検認によって前妻の子へ家庭裁判所から期日通知が送られることを避けたい場合には、法務局保管制度のほうが目的に近いといえます。
ただし法務局保管なら前妻の子へ一切通知されないわけではない
ここは非常に重要な注意点です。法務局の保管制度を利用すれば「検認の通知」はなくなりますが、前妻の子へ遺言書の存在が一切知らされない制度ではありません。
法務省によると、遺言者の死亡後、相続人や受遺者などの関係者のうち誰か1人が遺言書を閲覧したり、「遺言書情報証明書」の交付を受けたりすると、法務局はその他すべての関係相続人等へ、遺言書を保管している旨を通知します。これを「関係遺言書保管通知」といいます。[参照:法務省 遺言書保管制度の通知]
前妻の子が相続人であれば、原則としてこの「関係相続人等」に含まれるため、条件が成立すると前妻の子にも法務局から通知が届くことになります。
「法務局保管=前妻の子に知らせず相続手続を完結できる」と考えるのは正確ではありません。
自宅保管と法務局保管で通知はどう違う?
両者の違いを整理すると分かりやすくなります。
| 項目 | 自宅保管の自筆証書遺言 | 法務局保管の自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 家庭裁判所の検認 | 原則必要 | 不要 |
| 検認期日の通知 | 相続人へ裁判所から通知 | 検認自体がない |
| 前妻の子への通知可能性 | 検認時に原則通知される | 閲覧・証明書取得後などに法務局から通知される場合がある |
| 紛失・改ざんリスク | ある | 法務局保管のため低い |
「現在の妻や子から前妻の子へ直接連絡してほしくない」という目的であれば、法務局保管制度によって検認手続をなくすメリットはあります。
一方、「前妻の子に遺言書の存在自体を一切知らせたくない」という目的を完全に実現する制度ではありません。
法務局からの「関係遺言書保管通知」は止められる?
法務省によると、関係遺言書保管通知は、死亡後に関係相続人等の誰かが遺言書の閲覧または遺言書情報証明書の交付を受けた際に、その他すべての関係相続人等へ行われるものです。
この通知を行うために遺言者や相続人が特別な申込みをする仕組みではなく、所定の条件を満たすと法務局から通知されます。[参照:法務省]
したがって、遺言者が「前妻の子だけには関係遺言書保管通知をしないでほしい」と指定して除外する制度ではありません。
なお、法務省は、死亡後であっても関係相続人等の誰も閲覧や遺言書情報証明書の取得をしなければ、この関係遺言書保管通知は行われないと説明しています。ただし、実際に遺言に基づいて相続手続を進める際には証明書等が必要になる場面があるため、「最後まで通知されないこと」を前提に相続設計をするのは適切ではありません。
「指定者通知」と「関係遺言書保管通知」は別物
法務局の自筆証書遺言書保管制度には、「指定者通知」という別の通知制度もあります。
指定者通知は、遺言者があらかじめ希望し、最大3人まで指定した人に対して、法務局が遺言者の死亡を確認したときに「遺言書を保管している」ことを知らせる仕組みです。[参照:法務省]
指定者通知については通知先を選べますが、それとは別に、誰かが遺言書の閲覧等を行ったときに全関係相続人等へ送られる「関係遺言書保管通知」があります。
そのため、指定者通知の対象を現在の妻だけにしても、それによって前妻の子が将来の関係遺言書保管通知の対象から外れるわけではありません。
公正証書遺言も検認は不要
「自宅保管か法務局保管か」だけでなく、相続人同士の接触をできるだけ減らしたい場合には、公正証書遺言も比較対象に入ります。
公正証書遺言も、法務局保管の自筆証書遺言と同様、死亡後の家庭裁判所による検認は不要です。裁判所も、公正証書による遺言について検認は不要と明記しています。[参照:裁判所]
公証人が関与して作成するため、自筆証書遺言より作成コストはかかりますが、方式の不備によるトラブルを抑えやすいという特徴があります。
前妻の子がいるなど家族関係が複雑で、「現在の妻や子へ相続手続の負担をなるべく残したくない」という場合は、公正証書遺言を含めて司法書士・弁護士・公証役場などへ相談する価値があります。
遺言執行者を第三者に指定すれば家族同士の直接連絡を減らせる
「前妻の子と現在の妻・子に直接連絡してほしくない」という目的では、遺言書の形式だけでなく誰が相続手続きを行うのかも重要です。
そこで検討できるのが、遺言執行者の指定です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
例えば現在の妻ではなく、弁護士や司法書士など適切な第三者を遺言執行者として指定すれば、必要な連絡や手続きを第三者が担当し、現在の妻・子と前妻の子が直接やり取りする場面を減らせる可能性があります。
ただし、遺言執行者を置けば前妻の子へ一切連絡しなくてよい、という意味ではありません。
遺言執行者は相続人へ遺言内容を通知する義務がある
遺言執行者については、民法1007条により、就任後、遅滞なくその旨および遺言の内容を相続人へ通知する必要があります。
前妻の子も相続人である以上、遺言執行者を置いた場合には原則として通知対象になります。つまり、第三者を遺言執行者にしても、前妻の子に相続そのものを秘密にすることはできません。
一方、これはむしろ「現在の妻や現在の妻との子自身が連絡しなくてよいようにする」という目的には有効です。専門家である遺言執行者から必要な通知を行えば、家族同士が直接電話やメールをする必要を減らせます。
「前妻の子へ知らせない」のではなく、「法律上必要な連絡は第三者に任せ、家族同士の直接接触を避ける」という設計のほうが現実的です。
前妻の子を遺言で相続対象から外しても遺留分は残る
現在の妻と2人の子が相続人の場合、遺言によって前妻の子へ財産を渡さない内容にすること自体は可能ですが、前妻の子には原則として遺留分があります。
例えば配偶者と子2人が相続人であれば、法定相続分は配偶者が2分の1、子全体で2分の1となり、子2人ならそれぞれ4分の1が法定相続分となるのが基本です。
遺留分は通常、その法定相続分のさらに2分の1に相当するため、この例では前妻の子の遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の8分の1が基本的な目安になります。ただし、生前贈与や債務などによって実際の算定額は変わります。
また、遺留分は「遺言を書いた瞬間に自動的に支払うもの」ではなく、遺留分を侵害された相続人が所定の期間内に遺留分侵害額請求をすることで問題になります。
「全ての財産を今妻と今妻の子で分ける」だけでは曖昧さが残る
遺言書を書く場合、単に「全ての財産を現在の妻と現在の妻の子で分ける」とするだけでは、具体的な割合が不明確になる可能性があります。
例えば預金2,000万円と自宅不動産がある場合、「2人で分ける」が半分ずつなのか、話し合って自由に分けるのか、不動産は誰が取得するのかなどが分かりません。
相続人同士の話し合いをできるだけ避けたいのであれば、「妻Aに全財産の2分の1を相続させ、子Bに全財産の2分の1を相続させる」「自宅土地建物は妻Aに相続させ、○○銀行の預金は子Bに相続させる」といった形で具体化する方法があります。
家族関係が複雑なケースでは、文言のわずかな曖昧さが後の紛争につながることもあるため、作成前に専門家へ内容を確認してもらうことが有益です。
目的別に考えるとどの方法が向いている?
前妻の子と現在の家族の直接連絡を避けたい場合、遺言方法ごとの特徴を整理すると次のようになります。
| 目的 | 考えやすい方法 |
|---|---|
| 費用を抑えて自分で遺言を書きたい | 自筆証書遺言 |
| 自筆で作成しつつ検認をなくしたい | 自筆証書遺言書保管制度 |
| 方式不備のリスクを下げたい | 公正証書遺言 |
| 現在の家族と前妻の子の直接連絡を減らしたい | 専門家を遺言執行者に指定することを検討 |
| 前妻の子へ一切相続を知らせたくない | 法律上の相続人である以上、完全な秘匿を前提とするのは困難 |
特に「検認時に前妻の子へ連絡してほしくない」という一点で比べれば、自宅保管より法務局保管または公正証書遺言のほうが適しています。
ただし、法律上必要となるすべての通知までなくせるわけではないことには注意が必要です。
家族同士を接触させたくないなら「秘密にする」より第三者を介する設計が現実的
相続では、法律上の相続人に対して一定の情報を知らせることが制度上予定されています。そのため、前妻の子が実子である以上、「相続が始まっても存在を一切知らせない」という設計は難しい場合があります。
一方、本人の本当の希望が「前妻の子と現在の妻・子を直接会話させたくない」「住所や電話番号を教え合ってほしくない」「遺留分の請求が来ても妻や子自身に対応させたくない」ということであれば、別の解決方法があります。
例えば、公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言を利用し、さらに弁護士などの第三者を遺言執行者として指定しておけば、必要な通知や遺言執行を第三者経由で進める設計が考えられます。
遺留分侵害額請求が想定される場合には、その対応資金として預貯金を確保したり、生命保険なども含めて相続全体を事前に設計したりすることも検討できます。
専門家へ相談するときに伝えておきたい希望
弁護士、司法書士、公証人などへ相談する場合には、単に「遺言書を作りたい」と伝えるより、希望を具体的に整理しておくとよいでしょう。
- 前妻との間に子が1人いること
- 現在の妻との間にも子が1人いること
- 財産は基本的に現在の妻と現在の妻との子へ承継させたいこと
- 前妻の子の遺留分が問題になる可能性を理解していること
- 現在の家族と前妻の子をできるだけ直接連絡させたくないこと
- 検認による通知を避けたいこと
- 第三者の遺言執行者を希望するかどうか
こうした希望を伝えれば、自筆証書遺言書保管制度、公正証書遺言、遺言執行者、遺留分対策などを組み合わせて検討しやすくなります。
相続財産に不動産がある、財産額が大きい、前妻の子と長期間連絡を取っていないといった場合には、書式だけを自分で整えるより、相続開始後の手続まで考えた設計をしておくことが重要です。
まとめ:自宅保管なら検認で前妻の子へ通知される。法務局保管は検認不要だが別の通知制度がある
前妻との間の実子は、両親が離婚していても原則として相続人です。そのため、「全財産を現在の妻と現在の妻との子に相続させる」という遺言を作ったとしても、前妻の子が法律上の相続人でなくなるわけではありません。
自筆証書遺言を自宅で保管した場合は原則として家庭裁判所の検認が必要で、検認を申し立てると裁判所から相続人へ検認期日の通知が行われます。したがって、前妻の子にも原則として通知されます。[参照:裁判所]
これに対し、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば家庭裁判所による検認は不要です。その意味では、検認を通じて前妻の子へ裁判所から通知されることは避けられます。[参照:法務省]
ただし法務局保管制度では、死亡後に相続人や受遺者などが遺言書を閲覧したり遺言書情報証明書を取得したりすると、その他の関係相続人等へ「関係遺言書保管通知」が送られる仕組みがあります。前妻の子だけを通知対象から除外することはできません。[参照:法務省]
また、公正証書遺言も検認不要です。さらに、現在の妻や子と前妻の子をできるだけ直接やり取りさせたくない場合には、専門家を遺言執行者に指定する方法が考えられます。ただし遺言執行者にも相続人へ遺言内容等を通知する義務があるため、「前妻の子へ一切知らせない」のではなく、「必要な連絡を第三者に任せる」という考え方になります。
したがって、検認を避けたいのであれば法務局保管の自筆証書遺言または公正証書遺言、家族同士の直接連絡まで減らしたいのであれば第三者の遺言執行者を組み合わせるという方法が現実的です。前妻の子の遺留分や具体的な財産の分け方も関係するため、このような家族構成では、遺言作成時に弁護士・司法書士・公証役場などへ具体的な家族関係と希望を伝えて確認しておくと、死亡後のトラブルを減らしやすくなります。