自転車で走行中に自動車にはねられ、肩などを骨折した場合、相手方の任意保険会社との示談では「いくらくらい受け取れるのか」が気になるところです。しかし、交通事故の示談金は、骨折したという事実だけで一律に決まるものではありません。治療期間や実際の通院日数、休業の有無、後遺障害の有無、過失割合などによって金額が大きく変わります。
また、一般に「示談金」と呼ばれている金額には、慰謝料だけでなく、治療費、通院交通費、休業損害など複数の損害項目が含まれます。そのため、例えば「肩を骨折して通院1か月、被害者側の過失10%」という条件だけから最終的な示談金を断定することはできません。この記事では、交通事故による骨折の示談金について、どのような仕組みで計算されるのかを整理します。
交通事故の「示談金」は慰謝料だけではない
交通事故でけがをした場合の損害賠償には、一般に治療関係費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料などが含まれます。さらに、治療後も一定の機能障害や痛みなどが残り、それが後遺障害として認定された場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益が問題になることがあります。
例えば、肩を骨折して病院で治療を受けた場合、病院に支払われる治療費だけでなく、通院のために必要となった交通費や、仕事を休んで収入が減った場合の休業損害なども検討対象になります。したがって、示談金を見るときは「慰謝料はいくらか」だけではなく、どの損害項目が含まれているのかを確認することが重要です。
国土交通省が公表している自賠責保険の支払基準では、傷害による損害について治療関係費、通院交通費、休業損害、慰謝料などの項目が定められています。制度の基本的な内容は[参照]国土交通省「限度額と補償内容」で確認できます。
慰謝料には自賠責基準・任意保険基準・裁判基準という考え方がある
交通事故の慰謝料について調べると、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という言葉を目にすることがあります。これは慰謝料を検討するときに使われる基準の違いです。
自賠責保険では、傷害慰謝料について1日4,300円という支払基準が設けられています。ただし、単純に「治療期間の日数×4,300円」が必ず支払われるという意味ではありません。国土交通省によれば、慰謝料の対象日数は、傷害の状態や実治療日数などを勘案して治療期間の範囲内で決められます。
一方、任意保険会社はそれぞれの基準などに基づいて示談額を提示します。また、裁判や弁護士による交渉では、過去の裁判例などを基礎とした裁判基準が参考にされることがあります。そのため、保険会社から最初に提示された金額が、その事故で法律上考えられる唯一の金額とは限りません。
肩を骨折して通院1か月なら示談金はいくらになる?
「肩を骨折して通院期間が約1か月」という情報だけで、示談金を正確に計算することは困難です。同じ1か月の治療でも、毎日のように治療を受けたケースと、数回だけ通院したケースでは事情が異なります。また、入院の有無や骨折の程度、仕事への影響によっても損害額が変わります。
仮に治療期間が30日前後だったとしても、慰謝料以外に治療費や通院交通費、休業損害などが発生していれば、それらも損害として計算されます。そのため「1か月の骨折だから示談金は○万円」と単純に決めることはできません。
さらに重要なのが治療終了時の状態です。骨折が完全に治癒し、日常生活にも支障が残らなければ、主に傷害部分の損害を計算することになります。一方、肩関節の可動域制限や痛みなどが残り、医師から症状固定と判断された場合には、後遺障害に関する手続を検討する余地があります。
自転車1対自動車9なら「10%引かれる」とは限らない部分もある
交通事故では、被害者側にも事故発生について一定の責任がある場合、過失相殺によって損害賠償額が調整されます。例えば「自転車側10%、自動車側90%」という過失割合が確定した場合、被害者側の過失が損害賠償額に影響します。
ただし、実際の計算では自賠責保険の取扱いや任意保険による賠償などが関係するため、単純にすべての項目を機械的に10%減らせば最終金額になるとは限りません。また、そもそも提示された1対9という過失割合が事故状況に照らして妥当なのかも確認する必要があります。
日弁連交通事故相談センターによれば、過失割合は道路交通法上の優先関係、事故の予見・回避可能性、交通弱者の保護など複数の観点から判断され、実務では過去の裁判例を整理した基準などが参考にされています。[参照]日弁連交通事故相談センター
骨折では「治療が終わってから示談」が重要
骨折事故で注意したいのが、まだ治療中なのに示談を急いで成立させてしまうことです。通常、けがによる損害の全体像は、治療が終了するか症状固定となるまで確定しません。
例えば、事故直後には「1か月くらいで治りそう」と考えていても、肩の痛みや動かしにくさが続いて治療期間が延びることがあります。その場合、通院期間や休業期間が変われば損害額も変わります。
また、いったん示談を成立させると、原則としてその内容に従って事故の賠償問題を終了させることになります。したがって、治療中に保険会社から示談の話が出た場合には、治療状況を確認したうえで慎重に判断することが大切です。
保険会社から示談案が届いたら確認したい項目
相手方の任意保険会社から示談案が提示された場合は、合計額だけを見るのではなく、内訳を確認します。特に治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料、過失相殺などがどのように計算されているのかを見ることが重要です。
例えば、会社員で骨折によって仕事を休んだのであれば、休業損害が適切に計上されているか確認します。家事を主に担当している人の場合も、家事従事者として休業損害が問題になる場合があります。国土交通省の自賠責保険の案内でも、休業損害について有給休暇の使用や家事従事者が対象になり得ることが示されています。
また、肩の痛みや動かしにくさが残っている場合には、示談する前に主治医へ症状を具体的に伝えておくことも重要です。「腕を上まで上げられない」「荷物を持つと痛む」など、日常生活で生じている支障を診察時に正確に説明しておきましょう。
提示された示談金が妥当かわからない場合の確認方法
交通事故の示談金は専門的な計算が必要になるため、保険会社から提示された金額だけを見ても妥当性を判断しにくいことがあります。特に骨折事故では、治療期間、休業損害、後遺障害の可能性などによって金額差が生じやすいため、必要に応じて第三者へ相談する方法があります。
公益財団法人日弁連交通事故相談センターでは、自動車による交通事故の民事上の法律問題について、弁護士による無料の電話相談や面接相談、一定の場合には示談あっせんを実施しています。保険会社から提示された慰謝料などが妥当かわからない場合も相談例として案内されています。[参照]日弁連交通事故相談センター公式サイト
また、自分や家族が加入している自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いている場合、支払限度額の範囲で弁護士費用を保険でまかなえることがあります。自動車保険だけでなく、火災保険などに付帯している場合もあるため、契約内容を確認してみる価値があります。
まとめ:骨折事故の示談金は「通院1か月」だけでは決まらない
交通事故で肩を骨折した場合の示談金は、単純に「骨折だから○万円」「通院1か月だから○万円」と決まるものではありません。治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料などを積み上げ、さらに事故の過失割合などを考慮して最終的な賠償額を検討します。
自転車と自動車の事故で過失割合が1対9と提示されている場合でも、その割合が事故状況に照らして適切なのか、損害額へどのように反映されているのかを確認することが重要です。また、骨折後に肩の可動域制限や痛みなどが残る場合には、後遺障害の問題が生じる可能性もあります。
示談書へ署名する前に、治療が終了しているか、損害項目に漏れがないか、慰謝料や過失割合が妥当かを確認することが大切です。金額の妥当性を自分だけで判断することが難しい場合には、交通事故に詳しい弁護士や公的な交通事故相談窓口を利用し、具体的な事故資料を基に確認すると安心です。