交通事故を起こして過失運転致傷罪で起訴された場合、看護師として働いている人にとって気になるのが、刑事処分だけでなく看護師免許に影響するのかという点です。特に罰金刑となった場合、免許が自動的に取り消されるのではないかと不安になることがあります。
看護師免許については、保健師助産師看護師法に行政処分の根拠が定められています。ただし、罰金刑を受けたことと免許取消しはイコールではありません。実際の処分には戒告、一定期間の業務停止、免許取消しなど複数の段階があり、事案の内容などを踏まえて判断されます。
過失運転致傷で罰金刑を受けても看護師免許が自動的に取り消されるわけではない
まず押さえておきたいのは、過失運転致傷罪で罰金刑を受けたからといって、その時点で看護師免許が当然に剥奪される制度ではないということです。
保健師助産師看護師法第9条では、免許に関して「罰金以上の刑に処せられた者」が規定されています。そして同法第14条では、看護師が第9条各号のいずれかに該当するに至った場合などについて、厚生労働大臣が戒告、3年以内の業務停止、免許取消しの処分をすることができると定めています。条文は厚生労働省が公開する保健師助産師看護師法[参照]で確認できます。
重要なのは法律が「免許を取り消さなければならない」と一律に定めているわけではないことです。したがって、罰金以上の刑=即座に免許取消しと理解するのは正確ではありません。
「起訴された段階」と「罰金刑になった段階」は分けて考える
刑事事件については、起訴されたことと有罪判決・罰金刑が確定したことを区別する必要があります。起訴は検察官が裁判所に刑事事件の審理を求めた段階であり、それ自体が有罪判決ではありません。
例えば、正式裁判になった場合には、その後に裁判所が有罪・無罪や刑の内容を判断します。また、略式手続によって罰金となるケースもあります。看護師免許への影響を考える際にも、「過失運転致傷で捜査された」「起訴された」「罰金刑を受けた」といった各段階を混同しないことが大切です。
なお、具体的な事件について行政処分の対象になるか、どの時点でどのような手続が進むかは個別事情によって異なります。刑事事件の結果がまだ確定していない場合は、刑事事件を担当する弁護士にも免許への影響を含めて確認しておくと安心です。
看護師に対する行政処分には3つの種類がある
保健師助産師看護師法第14条に規定されている主な行政処分は、次の3種類です。
| 行政処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 行政上の処分として戒めを受ける |
| 業務停止 | 3年以内の一定期間、看護師として業務を行えなくなる |
| 免許取消し | 看護師免許そのものが取り消される |
このように、行政処分は免許取消しだけではありません。行為の内容や刑事処分などを踏まえて処分が検討される仕組みになっています。
また、厚生労働大臣が看護師について第14条の処分を行おうとする場合には、同法第15条により、あらかじめ医道審議会の意見を聴くこととされています。看護師等の行政処分については、厚生労働省の医道審議会・保健師助産師看護師分科会看護倫理部会[参照]でも過去の審議結果が公開されています。
交通事故を理由にした看護師の行政処分例もある
実際に、交通関係の犯罪を理由として看護師が行政処分を受けた例は公表されています。ただし、単に「交通事故だった」という情報だけで処分内容を比較することはできません。道路交通法違反の有無など、事件の具体的内容によって事情が大きく異なるためです。
例えば、厚生労働省が公表した2023年1月12日の医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会の議事要旨では、「過失運転致傷、道路交通法違反」の事案について業務停止6月とされた例が掲載されています。また、道路交通法違反について業務停止3月となった事案や、戒告となった事案も掲載されています。詳細は厚生労働省の議事要旨[参照]で確認できます。
一方、この事例を見て「過失運転致傷なら必ず6か月の業務停止になる」と判断することもできません。公表されている事案はそれぞれ事情が異なり、過失の程度、併せて成立した犯罪、刑事処分その他の事情などによって行政上の評価が変わり得ます。
免許取消しと業務停止は大きく異なる
看護師にとって最も重い行政処分が免許取消しです。しかし、法律上、罰金以上の刑を受けたすべての看護師について免許取消しを義務付けているわけではありません。
過去の行政処分を見る場合にも、「犯罪をした看護師が処分された」という部分だけではなく、何の犯罪だったのか、ほかの違反があったのか、どの程度の処分になったのかまで確認することが重要です。
そのため、交通事故で罰金になる可能性があるケースについて「看護師を一生続けられなくなる」と直ちに結論付ける必要はありません。ただし、行政処分の可能性そのものを無視するのも適切ではありません。
事故後に確認しておきたいポイント
交通事故による刑事事件と看護師免許への影響が心配な場合には、まず刑事手続の現在地を正確に把握することが重要です。起訴された段階なのか、略式命令が出たのか、正式裁判なのか、刑が確定しているのかによって状況が違います。
また、勤務先への報告義務については、法律上の免許制度とは別に就業規則や勤務先の規程が関係することがあります。勤務先への報告が必要かどうかについても、就業規則などを確認する必要があります。
さらに、行政処分に関する通知や照会などが届いた場合には放置せず、内容を確認して対応することが重要です。個別の刑事事件については、事故状況、被害の程度、道路交通法違反の有無、刑事処分などによって結論が変わり得るため、必要に応じて交通事故・刑事事件や医療従事者の行政処分に詳しい弁護士へ相談する方法もあります。
まとめ:罰金刑=看護師免許剥奪ではないが行政処分の可能性はある
過失運転致傷罪で起訴されたり罰金刑を受けたりした場合でも、看護師免許が自動的に取り消されるわけではありません。一方、保健師助産師看護師法では「罰金以上の刑に処せられた者」が規定されており、看護師について戒告、3年以内の業務停止、免許取消しという行政処分が行われる可能性があります。
厚生労働省が公開している過去の審議結果には、過失運転致傷と道路交通法違反に関して業務停止となった看護師の事例もあります。しかし、過去の一事例だけから現在の事件の処分を予測することはできません。
「起訴されたら免許取消し」「罰金になったら看護師を続けられない」と一律に考えるのではなく、刑事処分と看護師に対する行政処分を分けて考えることが重要です。具体的な事件については、確定した刑事処分や事故の事情を整理したうえで、厚生労働省などの公的情報を確認し、必要であれば専門家へ相談するとよいでしょう。