外科医の手術が傷害罪にならないのはなぜ?「正当行為」と違法性阻却事由をわかりやすく解説

外科手術では、医師がメスで患者の身体を切開したり、臓器の一部を切除したりすることがあります。外形だけを見れば人の身体を傷つける行為ですが、適切な医療行為が通常の傷害罪として処罰されるわけではありません。

この場面を刑法上説明するときに重要なのが、「正当行為」や、より広い概念である「違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)」です。

医師が医学的に適切な方法で行う治療行為は、一般に刑法35条の正当行為として違法性が阻却されると説明されます。ただし、医師が行えばどのような行為でも自動的に適法になるという意味ではありません。

思い出したい法律用語は「正当行為」の可能性が高い

刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めています。この規定が正当行為です。医師による適切な医療行為は、その代表的な例として法律の学習でも取り上げられます。

例えば、他人が突然ナイフで腕を切れば傷害罪が問題になります。しかし医師が治療目的で、必要な説明や同意などを踏まえ、医学的に適切な手術として患者の身体を切開する場合には事情が異なります。

刑法35条の条文はe-Gov法令検索で確認できます。[参照:e-Gov法令検索・刑法]

「違法性阻却事由」という言葉も関係する

もう一つ覚えておきたいのが違法性阻却事由という用語です。「阻却」とは、簡単にいえば成立を妨げる、取り除くという意味です。

犯罪を検討する際には、一般に構成要件への該当性だけでなく、違法性や責任などが問題になります。見た目として犯罪の構成要件に該当しそうな行為でも、正当化する事情があれば違法性が否定されることがあります。

正当行為は、この違法性を否定する理由の一つとして説明されます。したがって「外科手術が傷害罪にならない仕組みを何というか」という問いに対しては、文脈によって「正当行為」または「違法性阻却事由」という言葉が候補になります。

正当防衛や緊急避難との違い

違法性を阻却するものとして学習する代表的な制度には、正当行為だけでなく正当防衛や緊急避難があります。それぞれ意味が異なります。

用語 概要 代表的なイメージ
正当行為 法令または正当な業務による行為 適切な医療行為など
正当防衛 急迫不正の侵害に対して権利を防衛するためやむを得ずした行為 襲われた際に必要な範囲で反撃する場合
緊急避難 現在の危難を避けるためやむを得ずした一定の行為 差し迫った危険から生命・身体などを守る場合

刑法では正当行為が35条、正当防衛が36条、緊急避難が37条に規定されています。いずれも結果だけを見て犯罪の成否を判断するのではなく、その行為が行われた状況や目的などを考えるうえで重要な制度です。

手術なら何でも正当行為になるわけではない

ここで注意したいのは、「医師による手術=無条件で犯罪にならない」という公式ではないことです。医療行為としての正当化には、治療目的や医学的な必要性・相当性、患者の同意などが重要な問題になります。

例えば患者の意思に反して医学的必要性のない処置を行ったケースまで、通常の治療行為と同じように考えることはできません。また、緊急時には患者本人から事前の同意を得られない場合もあるため、具体的な事案によって法的評価は異なります。

さらに医療行為そのものが正当化されることと、手術中に医療過誤があった場合の刑事・民事上の責任は別問題です。「治療だった」というだけで、過失による結果について一切責任を問われないという意味ではありません。

「構成要件に該当しない」のか「違法性がない」のか

法律を詳しく勉強すると、治療行為を犯罪論のどの段階で説明するのかについて、より細かな議論に触れることがあります。そのため、試験や講義では使用している教科書や講師の説明に合わせることも大切です。

日常的な説明としては、患者の身体を切開する外科手術を例に「形式的には傷害に当たり得る行為でも、正当な医療行為なら違法性が阻却される」と理解すると整理しやすいでしょう。

特に「法律用語を思い出したい」という場合には、まず正当行為(刑法35条)、その上位概念として違法性阻却事由という二つの言葉を覚えておけば、多くの場合に探していた概念へたどり着けます。

まとめ

外科医が治療のために患者の身体を切開しても通常の傷害罪として処罰されないことを説明するとき、中心となる法律用語は「正当行為」です。刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と規定しています。

そして正当行為などによって、本来違法となり得る行為の違法性が否定される仕組みを広く表現する言葉が「違法性阻却事由」です。そのため、思い出そうとしている言葉が一語なら「正当行為」、犯罪論上のカテゴリーを指しているなら「違法性阻却事由」の可能性が高いでしょう。

ただし医療行為なら無条件に正当化されるわけではなく、具体的な医療行為の適法性は目的、必要性・相当性、患者の同意、緊急性などを踏まえて判断されます。個別事件の法的判断が必要な場合には、一般論だけで結論を出さず弁護士などの専門家へ確認することが重要です。

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