光市母子殺害事件の死刑はなぜ執行されていない?犯行時少年と死刑執行・再審請求の仕組みを解説

日本では、犯行時に少年だった人物について死刑判決が確定することがあります。一方、死刑が確定してから長期間にわたって執行されないケースもあり、「少年だったことを理由に法務大臣が執行を認めていないのではないか」と疑問を持たれることがあります。

代表的に知られる光市母子殺害事件では、犯行当時18歳だった被告人について2012年に死刑が確定しました。しかし2026年時点でも執行されておらず、再審請求に関する手続も続いています。

ただし、執行されていない理由を「犯行時に未成年だったから法務大臣が許可していない」と断定することはできません。法務省は個別の死刑執行を行う・行わない理由について原則として詳細を公表しておらず、死刑確定者ごとの事情を精査して執行命令を判断するという立場を示しています。

まず「未成年なら死刑にならない」という理解には注意が必要

少年法では、罪を犯した時点で18歳未満だった者について、死刑をもって処断すべき場合には無期拘禁刑を科すと定めています。つまり、日本法で死刑を科すことができない年齢の基準は、現在の少年法51条では「犯行時18歳未満」です。[参照:e-Gov法令検索 少年法]

そのため「少年法上の少年だった=絶対に死刑にならない」という意味ではありません。犯行時に18歳以上であれば、犯行時の年齢は量刑上の重要な事情になるものの、法律上、死刑を選択すること自体が禁止されるわけではありません。

光市母子殺害事件の被告人は犯行当時18歳でした。最高裁は2012年2月に上告を棄却し、死刑判決が確定しました。したがって、現在は「少年だから死刑を執行できない状態」なのではなく、法的には死刑が確定している死刑確定者として扱われています。

永山則夫と光市母子殺害事件はどう違うのか

永山則夫元死刑囚は、1968年に発生した連続射殺事件で犯行当時19歳でした。最高裁判決は、後の死刑選択において参照される、いわゆる「永山基準」で知られています。永山元死刑囚に対する死刑は1997年8月に執行されました。

この事例からも、犯行時に20歳未満だったこと自体が死刑執行を法律上禁止するものではないことが分かります。もっとも、永山事件と光市母子殺害事件では犯罪内容、裁判経過、死刑確定後の手続などが異なるため、「永山元死刑囚は執行されたのだから別の犯行時少年も同じ時期に執行されるべき」と単純に比較することはできません。

死刑を選択する際には、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、被害者数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状など、多数の事情を総合的に考慮するという最高裁判例上の考え方があります。

死刑は確定したら自動的に執行されるわけではない

死刑判決が確定しても、刑務所側の判断だけで自動的に執行されるわけではありません。刑事訴訟法475条1項は「死刑の執行は、法務大臣の命令による」と規定しています。[参照:e-Gov法令検索 刑事訴訟法]

同条2項には、原則として判決確定の日から6か月以内に命令しなければならないとの規定があります。ただし再審請求など一定の手続に要した期間を算入しない規定があり、さらに法務省はこの6か月の規定について一般に「訓示規定」と解されていると説明しています。

したがって「死刑確定から6か月過ぎたので執行できなくなる」という制度ではありません。実際には死刑確定から執行までの期間には大きな差があります。

法務大臣は何を確認して執行命令を出すのか

法務省は死刑執行について、個々の事案の関係記録を十分に精査し、刑の執行停止事由や再審事由の有無などを慎重に検討したうえで、そうした事由がないと認めた場合に執行命令を発するという考え方を説明しています。[参照:法務省 法務大臣記者会見]

つまり「法務大臣が署名したくないから止まっている」という単純な仕組みとして理解するのは正確ではありません。執行前には法務省内で関係記録を確認し、法的な問題や再審に関する事情などを検討するプロセスがあります。

一方で、いつ、誰について執行命令を出すのかという個別判断について、法務省は基本的に詳細な理由を明らかにしていません。そのため、外部から特定の死刑確定者について「この理由で執行されない」と確定的に説明することは困難です。

光市母子殺害事件では再審請求が繰り返されている

光市母子殺害事件では2012年に死刑が確定した後、弁護側から再審請求が行われています。第1次、第2次の再審請求はいずれも最終的に認められず、その後、第3次再審請求が申し立てられました。

2026年2月27日付で広島高裁は第3次再審請求を棄却しましたが、弁護側はこの決定に対して異議を申し立てています。したがって2026年時点でも再審をめぐる手続が続いている状況です。

ただし、ここにも重要な注意点があります。再審請求中であること自体が、法律上当然に死刑執行を停止させるわけではありません。政府は国会答弁などで、再審請求がなされていることは十分に考慮するものの、「再審請求中だから一律に執行しない」という考え方は採っていないと説明しています。[参照:参議院 政府答弁書]

「犯行時少年だから執行されない」とはいえない

ここまで整理すると、光市母子殺害事件の死刑が現在まで執行されていないことについて、「犯行時少年だから法務大臣が執行命令を出さない」という因果関係が公式に示されているわけではないことが分かります。

そもそも永山則夫元死刑囚のように犯行時19歳で死刑が確定し、その後執行された事例があります。そのため犯行時20歳未満だったという事実だけを、執行されない法的理由とすることはできません。

一方、犯行時の年齢は死刑を選択する裁判では重要な事情の一つです。これは「死刑判決を言い渡すか」という裁判上の量刑判断と、「確定した死刑をいつ執行するか」という行政上の執行手続を区別して理解すると分かりやすくなります。

「死刑確定」と「死刑執行」は別の段階

死刑制度について考える際には、「死刑判決」「死刑確定」「再審請求」「執行命令」「死刑執行」をそれぞれ別の段階として整理することが重要です。

段階 意味
死刑判決 裁判所が死刑を言い渡す
死刑確定 上訴手続などを経て判決が確定する
再審請求 確定判決について再審開始を求める手続
執行命令 刑事訴訟法475条に基づき法務大臣が命令する
死刑執行 執行命令を受けて刑が執行される

光市母子殺害事件では「死刑にするかどうか」はすでに確定判決によって決着しています。現在問題となるのは確定した刑の執行と、並行して行われている再審に関する手続です。

この区別をしないと「少年だからまだ死刑が確定していない」「法務大臣が死刑判決を認めていない」といった誤解につながります。法務大臣が死刑判決そのものを許可する制度ではなく、裁判所によって確定した死刑について執行命令を発する立場です。

まとめ:光市事件が未執行の理由を「未成年だったから」と断定することはできない

光市母子殺害事件では、犯行当時18歳だった被告人について2012年に死刑が確定しています。少年法51条が死刑を禁止しているのは犯行時18歳未満であるため、この事件について犯行時少年だったこと自体が死刑執行を法律上禁止しているわけではありません。

2026年時点でも死刑が執行されていないものの、「犯行時に未成年だったため法務大臣が執行を許可しない」という公式な説明はなく、そのように断定することはできません。法務省は個々の事件について関係記録、刑の執行停止事由、再審事由などを慎重に検討して執行命令を判断すると説明しています。

また同事件では現在まで複数回の再審請求が行われ、2026年には第3次再審請求を棄却した広島高裁決定に対して異議申立てが行われています。ただし再審請求中であることも法律上の絶対的な執行停止理由ではありません。したがって、特定の死刑確定者がなぜ現在まで執行されていないのかについては、公開情報から推測で理由を決めつけず、法務省が公表している一般的な執行手続と個別事件の手続状況を分けて理解することが重要です。

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