交際相手などから暴力を受け、肋骨骨折や打撲など「全治1か月」と診断され、相手が逮捕・勾留された場合、その後は捜査を経て検察官が起訴するか不起訴にするかを判断します。以前にも暴力を受けたのに不起訴だった経験があると、今回も同じ結果になるのではないかと不安になることがありますが、過去の不起訴だけで今回の処分が決まるわけではありません。
また、被害者と加害者が不倫関係だった場合でも、不倫関係であることと、暴行・傷害を受けたことは別の法律問題です。不貞に関する民事上の問題が生じる可能性があるからといって、暴力や脅迫を受けても警察へ相談できないということにはなりません。
ここでは、傷害事件で逮捕された後の流れ、全治期間と処分の関係、以前の事件が不起訴だった場合の考え方、示談への対応、不倫相手の配偶者から慰謝料請求される可能性、再接触への備えまで整理します。
全治1か月の傷害でも「必ず起訴」とは限らない
人の身体を傷害した場合には刑法上の傷害罪が問題になります。ただし「全治1か月なら必ず起訴」「全治2週間なら不起訴」というように、診断書の全治期間だけで刑事処分が機械的に決まる制度ではありません。
検察官は、けがの程度だけでなく、暴行の態様、動機や経緯、証拠、前後の言動、被害者との関係、反省や示談の状況など事件ごとの事情を踏まえて処分を判断します。そのため、同じ全治1か月でも事件によって結果は異なります。
肋骨骨折など客観的な傷害があり、診断書や写真などの証拠が存在する場合は重要な捜査資料になります。さらに過去にも暴力があった場合には、その日時や診断書、写真、警察への相談記録、メッセージなどを整理して担当者へ伝えておくことが大切です。
逮捕・勾留された後はどう進む?
逮捕されたからといって、その時点で有罪が確定したわけではありません。警察・検察による捜査が行われ、勾留が認められている場合には身柄拘束下で捜査が続き、その後、検察官が起訴・不起訴などを判断します。
起訴されれば刑事裁判へ進みます。不起訴となれば、その事件について刑事裁判には進みません。不起訴にも、証拠関係などによって犯罪成立を認定できない場合のほか、犯罪成立を認定できても諸事情を考慮して起訴しない起訴猶予などがあります。
したがって「以前の傷害事件が不起訴だった」という事実だけから、今回も不起訴になるとは判断できません。今回のけがや証拠、事件経緯について改めて捜査・判断されます。
過去にも殴られていた場合は記録を整理して伝える
同じ人物から繰り返し暴力を受けていた場合、今回の事件だけでなく過去の経緯についても捜査担当者へ正確に伝えることが重要です。以前の事件について警察へ相談・被害申告をしているなら、その時期や警察署なども整理しておきます。
例えば、過去の診断書、けがを撮影した写真、暴力の直後に送ったメッセージ、相手からの謝罪、暴力を認める内容、目撃者、通院記録などが残っている場合は、自己判断で削除せず保存します。
「殺すぞ」「腕をへし折る」など身体への危害を示す発言を受けている場合も、その日時、場所、具体的な言葉、録音・メッセージの有無を整理します。発言が法律上どの犯罪に当たるかは個別事情によるため、被害者側で罪名を決める必要はなく、事実をそのまま警察・検察へ伝えることが重要です。
釈放後の接触やストーカー行為が心配な場合
刑事処分と同時に考えたいのが、相手が釈放された後の安全です。以前から待ち伏せ、つきまとい、大量の連絡、脅迫などがあったのであれば、「釈放されたら再び接触されるのが怖い」という点を事件担当の警察官や検察官へ具体的に伝えておくことが大切です。
警察庁は、犯罪被害やストーカーなどについて警察相談専用電話「#9110」や各都道府県警察の被害相談窓口を案内しています。緊急に危害を受けるおそれがある場合は110番を利用します。[参照:警察庁 犯罪被害者等施策]
相手との関係を終わらせたい場合、自分だけで会って別れ話や示談交渉をする必要はありません。身の危険を感じている状況では、直接会わないことを優先し、必要に応じて警察や弁護士を介して対応する方法があります。
示談を求められた場合はその場で決めなくてよい
逮捕・勾留後、加害者側の弁護士から被害者へ示談の申し入れが行われることがあります。治療費や慰謝料などを支払う代わりに示談書を作成したいという内容が典型的です。
示談に応じる義務はありません。また示談する場合でも、金額だけでなく、今後一切接触しない、電話やSNSで連絡しない、自宅・勤務先へ近づかないといった条件を検討することがあります。どのような条項が適切かは事件によって異なります。
特に繰り返し暴力を受けているケースでは、早く終わらせたいという気持ちだけで署名する前に、自分側の弁護士へ相談する方法があります。示談書には刑事処分に関係する文言が含まれる場合があるため、内容を理解してから判断することが重要です。
不倫相手の妻から訴えられる問題と傷害事件は分けて考える
既婚者との不貞行為については、一定の場合に配偶者から民事上の損害賠償を請求される可能性があります。ただし「既婚者と交際していた=必ず慰謝料を支払う」と単純に決まるものではありません。
例えば、交際開始時に婚姻関係が既に破綻していたか、既婚者だと知っていたか・知ることができたかなど、具体的事情が問題になります。最高裁判例でも、不貞行為の相手方に対する損害賠償について婚姻関係の破綻など個別事情が重要になることが示されています。[参照:裁判所 判例]
そして最も重要なのは、配偶者から慰謝料を請求される可能性があることと、交際相手から暴力を受けた傷害事件は別問題だという点です。「妻から訴えられるぞ」と言われたことを理由に、暴力の被害申告を断念する必要はありません。
借金や退職を求められた場合も証拠を残す
交際相手から指示されて借金をした、仕事を辞めた、金銭を渡したといった事情がある場合には、その経緯が分かる資料も保存しておきましょう。ただし「相手に言われた」という事実だけで直ちに全額を請求できるとは限らず、法的評価は具体的な経緯によって変わります。
保存しておきたいものには、LINEやメールなどのメッセージ、振込記録、借入契約書、退職前後のやり取り、録音、相手へ渡した金銭の記録などがあります。スマートフォンだけに保存すると紛失や故障のリスクがあるため、安全な場所へバックアップしておく方法もあります。
暴力、脅し、ストーカー行為、金銭問題が複雑に絡んでいる場合には、刑事事件だけでなく民事上の損害賠償などについて弁護士へ相談する価値があります。
被害者側も弁護士へ相談できる
弁護士というと逮捕された側が依頼するイメージがありますが、犯罪被害者側も相談・依頼できます。治療費や慰謝料などの損害賠償、加害者側から提示された示談内容の確認、今後の接触への対応などを相談できます。
警察庁の犯罪被害者等施策ホームページでは、警察だけでなく法テラスや弁護士会などを含む犯罪被害者向けの各種相談・支援情報が案内されています。[参照:警察庁 犯罪被害者向け支援一覧]
刑事事件の処分を被害者自身が決めることはできませんが、被害状況や処罰に関する意向、安全上の不安などを担当警察官・検察官へ伝えることは重要です。事件の進行状況について知りたい場合も、担当者へ利用できる被害者向け制度を確認するとよいでしょう。
まとめ:全治1か月でも処分は一律ではなく、安全確保と証拠保存が重要
全治1か月の傷害を負わせた相手が逮捕・勾留されていても、「全治1か月だから起訴」「以前不起訴だったから今回も不起訴」と結論付けることはできません。けがの程度、暴行の態様、証拠、過去の経緯、示談などを踏まえて検察官が判断します。
2速、3速のように単純な基準があるわけではなく、過去にも暴力や危害を加える発言、ストーカー的な行為があった場合には、それぞれの日時・内容と証拠を整理し、警察・検察へ正確に伝えることが重要です。
不倫に関する民事上の問題が生じる可能性と、暴力・傷害の被害を警察へ申告することは切り分けて考える必要があります。相手との縁を切りたい、安全面に不安があるという場合には一人で相手と交渉せず、事件担当者や犯罪被害者支援窓口、必要に応じて弁護士へ相談しながら、再接触への対策と刑事・民事双方の問題を整理することが大切です。