遺産を「通帳ごと」に分けたい場合は遺言書が必要?預貯金の相続・遺産分割協議の進め方を解説

親が終活を進めるなかで、「この銀行口座は妻へ、この口座は子どもへ」というように、預貯金の分け方を生前に決めておきたいケースがあります。このような希望を死亡後の相続に反映させる代表的な方法が遺言書です。

遺言書がなくても、死亡後に相続人全員で遺産分割協議を行い、全員が合意すれば財産の分け方を決めることはできます。しかし、本人が「通帳①は妻、通帳②~④は娘2人」という分け方を希望しているのであれば、その意思を確実に残すという意味で遺言書を検討する価値があります。

ただし、預貯金だけを見て遺言を作ると、自宅などの不動産、株式、保険、現金、その他の財産や債務が漏れることがあります。また遺留分や相続税など別の問題もあるため、財産全体と家族関係を整理して考えることが重要です。

遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割を決める

遺言書がない場合、相続財産については相続人を確定したうえで、遺産分割協議によって誰が何を取得するか決めるのが一般的です。例えば相続人が妻と娘2人の合計3人なら、この3人全員で協議します。

なお、法定相続分は「必ずその割合で財産を一つずつ分けなければならない」という意味ではありません。配偶者と子が相続人の場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子全体で2分の1ですが、相続人全員の合意による遺産分割では、具体的な財産の取得方法を決めることができます。国税庁も法定相続分について案内しています。[参照:国税庁 相続人の範囲と法定相続分]

例えば預金口座が4つあり、母と娘2人が「口座①は母、口座②は長女、口座③と④は次女」という内容に全員納得するなら、その内容を遺産分割協議書に記載することが考えられます。実際の手続では各金融機関が求める書類も確認します。

本人が分け方を決めておきたいなら遺言書が有効

一方、本人が生前に「自分が亡くなったら、この預金はこの人に取得してほしい」と決めておきたい場合には、遺言書が重要になります。遺言は本人が亡くなった後に意思を伝え、相続手続を円滑にするための代表的な制度です。

例えば「○○銀行○○支店の普通預金を妻○○に相続させる」「△△銀行の預金を長女と次女に各2分の1の割合で相続させる」といった形で、対象財産と取得者が特定できるように記載する方法が考えられます。

ここで「通帳①」「通帳②」という家族内だけで分かる表現にするより、銀行名、支店名、預金の種類などを用いて対象を特定しやすくすることが重要です。ただし口座番号などをどこまで記載するか、財産目録をどう作成するかについては、遺言方式や事情に応じて専門家へ確認すると安心です。

遺言書があれば遺産分割協議書は必ず必要なのか

ここは混同されやすいポイントです。有効な遺言書によって財産の取得者が明確に指定され、その内容どおりに相続手続を行うのであれば、その財産について改めて相続人全員が「遺言書どおりに分けます」と合意する遺産分割協議が必ず必要になるわけではありません。

つまり、「父が遺言を書く→父の死亡後、その遺言を見ながら母と娘2人で同じ内容の遺産分割協議書を作ってサインする」という二段階が常に必要というわけではありません。有効な遺言があれば、原則としてその内容に基づいて相続手続を進めることになります。

ただし、遺言に記載されていない財産が見つかった場合などは、その財産について遺産分割協議が必要になることがあります。そのため遺言を作成するときには、預金口座だけでなく財産全体を確認しておくことが大切です。

「通帳を渡す」ことと「預金を相続させる」ことは別

相続で重要なのは紙の通帳そのものではなく、その銀行口座に存在する預金債権です。「この通帳を妻に渡しておけば妻のお金になる」という単純な仕組みではありません。

銀行は口座名義人の死亡を把握すると、相続手続が完了するまで取引を制限することがあります。その後、遺言書や戸籍関係書類、金融機関所定の書類など、ケースに応じた必要書類を提出して相続手続きを進めます。

したがって終活では、通帳を家族ごとに分けて保管するだけではなく、「どの金融機関にどのような財産があるか」という財産一覧を作成し、そのうえで遺言によって取得者を指定する方法が分かりやすいでしょう。

自筆証書遺言には法律上の形式がある

遺言書は単なる家族への手紙とは異なり、法律で方式が決められています。本人の意思が明確でも、法律上必要な形式を満たしていなければ、遺言として効力が認められない問題が生じる可能性があります。

自筆証書遺言は比較的手軽に作成できます。また現在は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」があります。法務局では保管申請時に形式について外形的な確認が行われ、原本と画像データが保管されます。[参照:法務省 自筆証書遺言書保管制度]

法務局で保管された自筆証書遺言は、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要になることも大きな特徴です。一方、自宅などで保管されていた通常の自筆証書遺言については、原則として死亡後に家庭裁判所で検認の手続が必要になります。

公正証書遺言という方法もある

もう一つ代表的なのが公正証書遺言です。法律の専門家である公証人が関与して作成し、原本が公証役場側で保管されます。一定の費用はかかりますが、方式不備によって遺言が無効になるリスクを抑えやすく、家庭裁判所での検認も必要ありません。

特に、本人が重い病気である、財産が複数ある、相続人間で将来意見が分かれる可能性がある、不動産があるなどの場合には、公証役場や相続に詳しい弁護士・司法書士などへ早めに相談する価値があります。

本人が病気療養中の場合は、体調だけでなく意思能力も重要です。「亡くなる直前に急いで作ればよい」と先延ばしにせず、本人が自分の意思を明確に示せるうちに準備を始めることが大切です。

妻と娘2人なら遺留分にも注意する

遺言では法定相続分と異なる分け方を指定することもできますが、一定の相続人には「遺留分」という最低限保障される相続上の利益があります。そのため、特定の相続人へ財産の大部分を集中させるような遺言では、死亡後に遺留分をめぐる問題が生じる可能性があります。

例えば父の相続人が妻と娘2人だけである場合、配偶者と子はいずれも遺留分を持つ相続人です。「妻には口座①だけ、残りすべてを娘へ」という分け方を希望する場合には、各口座の残高だけでなく、不動産などを含めた遺産全体の価額から検討する必要があります。

家族全員が現在は納得していても、死亡後には生活状況や考え方が変化することがあります。遺産額が大きい場合や分配割合に大きな差がある場合は、遺留分まで考慮した遺言を専門家と作成するとトラブルを予防しやすくなります。

まず「財産一覧」を作ると終活を進めやすい

病気療養や介護をしながら相続制度を一から調べるのは負担が大きいため、最初から完璧な遺産分割を決めようとせず、まず財産を一覧にするところから始めると整理しやすくなります。

  • 銀行名・支店名・預金の種類
  • 証券口座・株式・投資信託
  • 自宅・土地などの不動産
  • 生命保険
  • 現金その他の財産
  • 住宅ローンや借入金などの債務

そのうえで、「誰に何を取得してほしいか」を本人の希望として整理します。預金残高は今後の医療費・生活費などで変化するため、「通帳を2冊ずつ」のような冊数だけで公平性を判断せず、財産全体を見て考えることも重要です。

なお、相続税が発生するかどうかは遺産総額などによって異なります。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。税金が関係しそうな場合は税理士への相談も検討するとよいでしょう。[参照:国税庁 相続税の計算]

まとめ:本人が預金の分け方を決めたいなら遺言書を検討する

「通帳①の預金は妻へ、通帳②~④の預金は娘2人へ」というように、本人自身が死亡後の財産の取得者を決めておきたいのであれば、口頭で家族へ伝えるだけではなく、有効な遺言書として意思を残しておくことを検討するのが基本です。

遺言書がなければ、死亡後に相続人全員で遺産分割協議を行い、全員の合意によって分け方を決めることができます。一方、有効な遺言書があり、その内容どおりに相続する場合、遺言で取得者が決まっている財産について、改めて同じ内容の遺産分割協議書を作ることが常に必要なわけではありません。

病気療養中の終活では、まず預貯金・不動産・保険・有価証券・債務などを一覧にし、本人の希望を整理することから始めるとよいでしょう。そのうえで自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらが適しているかを検討し、財産が多い場合や内容に不安がある場合には、本人の意思が明確なうちに公証役場や相続に詳しい専門家へ相談することが、家族の将来の負担を減らすことにつながります。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール