交通事故の被害者にも弁護士は付く?検察官との違いと損害賠償で弁護士を依頼する意味を解説

交通事故を扱ったドラマや漫画では、加害者側に弁護士がいる一方で、被害者側には弁護士が登場しない場面があります。そのため「交通事故の被害者には検察官がいるから弁護士は必要ないのでは?」と疑問に思うことがあります。

しかし、日本の制度では検察官と被害者側の弁護士は役割がまったく異なります。交通事故の被害者が、自分の損害賠償請求や示談交渉のために弁護士へ依頼することは普通に可能です。

特に死亡事故や重い後遺障害が残る事故では賠償額が高額になることがあり、過失割合、逸失利益、慰謝料、介護費など複数の争点が生じます。「刑事事件」と「民事上の損害賠償」を分けて考えることが、この問題を理解するポイントです。

交通事故には「刑事」と「民事」という別の問題がある

人身事故が発生すると、事故の内容によっては運転者について刑事事件として捜査・起訴が行われることがあります。この刑事手続では、犯罪が成立するのか、被告人をどのように処罰するのかが問題になります。

一方、被害者が治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益などの賠償を求める問題は、基本的には民事上の損害賠償の問題です。刑事裁判で加害者を処罰することと、被害者が適正な損害賠償を受けることは同じ手続ではありません。

例えば重大な交通事故について刑事裁判が行われていても、それだけで検察官が被害者の代理人となり、保険会社と交渉して「慰謝料を○千万円支払ってください」と請求してくれるわけではありません。

検察官は被害者個人の損害賠償を請求する代理人ではない

刑事事件における検察官は、捜査を行ったり、犯罪の嫌疑がある事件について起訴するかを判断したり、刑事裁判で犯罪事実を立証したりする立場です。

したがって「被害者には検察官がいるから弁護士は付かない」という理解は正確ではありません。検察官が刑事事件を担当していても、被害者は別途、自分の権利を守るために弁護士へ相談・依頼できます。

さらに一定の犯罪では「被害者参加制度」があり、裁判所から参加を許可された被害者等が刑事裁判へ参加できます。法テラスによると、被害者本人だけでなく、一定の場合の遺族や、それらの人から委託を受けた弁護士も制度に関与できます。一定の資力要件を満たす被害者参加人には国選被害者参加弁護士の制度もあります。[参照:法テラス 被害者参加人のための国選弁護制度]

交通事故の被害者側弁護士は何をするのか

交通事故で被害者が弁護士へ依頼する大きな目的の一つが、民事上の損害賠償請求です。相手方本人や相手方の保険会社との交渉を代理し、事故によって生じた損害を整理して請求します。

対象となり得る損害には、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などがあります。死亡事故では死亡慰謝料や死亡逸失利益、葬儀関係費などが問題になることがあります。

日弁連交通事故相談センターも、自動車による交通事故の「民事上の法律問題」について弁護士による相談や示談あっせん等を行っています。つまり交通事故被害者が弁護士へ相談すること自体、制度上ごく通常の選択肢です。[参照:日弁連交通事故相談センター]

弁護士を付ければ必ず賠償金が大幅に増えるわけではない

ドラマなどで「弁護士を付けていれば1億円取れた」といった表現が登場しても、現実の交通事故で弁護士を付ければ自動的に1億円になるわけではありません。損害賠償額は事故による具体的な損害によって決まります。

例えば若い被害者に重い後遺障害が残り、生涯にわたり働く能力へ重大な影響が出たケースでは、将来得られたはずの収入である逸失利益などが大きくなり、賠償総額が非常に高額になることがあります。将来の介護が必要なら介護関係費も重要な争点です。

反対に軽傷事故で損害自体が小さいのであれば、弁護士が介入したからといって根拠のない巨額請求が認められるわけではありません。弁護士の役割は「必ず金額を何倍にもする」ことではなく、法的に認められる損害を整理し、適正な賠償を求めることと考えるほうが正確です。

保険会社の提示額と裁判実務上の算定は同じとは限らない

交通事故の損害賠償では、示談交渉段階の提示額と、訴訟になった場合に裁判実務上参考とされる算定との間に差が生じるケースがあります。そのため重大事故では、提示された金額をそのまま受け入れる前に弁護士へ相談する意味が大きくなります。

交通事故実務では、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」、通称「赤い本」が広く知られています。同センターは、この書籍について東京地裁の実務に基づき賠償額の基準や参考判例を掲載した法曹関係者向け専門書と説明しています。[参照:日弁連交通事故相談センター]

ただし「保険会社の提示額より弁護士が請求すれば必ず高くなる」と断定することもできません。事故態様、過失割合、傷害の程度、後遺障害、収入、年齢など個々の事情によって結果は変わります。

被害者が弁護士を付けない交通事故も珍しくない

被害者が弁護士を付けられるからといって、すべての交通事故で実際に弁護士が付くわけではありません。比較的軽い物損・人身事故では、被害者本人と相手方保険会社との話し合いで示談まで進むケースもあります。

被害者自身が加入している自動車保険に示談交渉サービスが付いている場合には、自分側の保険会社が対応できるケースもあります。ただし、被害者に過失がない、いわゆる「もらい事故」では、自分の保険会社が相手方との示談交渉を代理できないことがあります。

そのような場合にも役立つのが弁護士費用特約です。契約内容によりますが、自動車保険などに弁護士費用特約が付いていれば、交通事故について弁護士へ相談・依頼する費用を保険でカバーできることがあります。本人の自動車保険だけでなく、家族の契約などが利用できる場合もあるため、約款や保険会社への確認が重要です。

刑事事件でも被害者が弁護士に依頼する制度がある

「刑事事件では被告人だけに弁護士が付く」というイメージも正確ではありません。法テラスでは犯罪被害者への弁護士紹介などの支援を行っており、一定の刑事事件では被害者参加制度も用意されています。

被害者参加制度の対象には、自動車運転死傷行為処罰法に定める一定の過失運転致死傷罪なども含まれます。参加を許可された被害者参加人は一定の手続に関与でき、弁護士へ委託することも可能です。[参照:法テラス 犯罪被害者支援制度]

資力など所定の条件を満たせば、国が費用を負担する国選被害者参加弁護士を選定してもらえる制度もあります。したがって刑事事件についても「検察官がいるので被害者側に弁護士は存在しない」という説明は誤りです。

刑事・民事・保険を分けると交通事故の仕組みが分かりやすい

交通事故を理解するときには、誰が何を担当するのかを整理すると混乱しません。

立場 主な役割
警察 事故の捜査など
検察官 刑事事件の捜査・起訴、公判での立証など
加害者側の弁護士 加害者・被疑者・被告人等の権利や利益を守る
被害者側の弁護士 損害賠償請求、示談交渉、訴訟、被害者支援など
保険会社 契約内容に基づく保険金支払いや事故対応など

実際には一つの事故から刑事責任、民事責任、行政上の処分などが並行して問題になることがあります。それぞれ目的と手続が違うため、「検察官がいるから民事の弁護士はいらない」という関係にはなりません。

まとめ:交通事故の被害者にも弁護士は付けられ、検察官とは役割が違う

交通事故の被害者は弁護士へ依頼できます。「被害者には検察官がいるから弁護士は付かない」という理解は正確ではありません。検察官は刑事事件において犯罪を捜査・起訴し、公判で立証する立場であり、被害者個人の損害賠償請求を全面的に代理する弁護士ではありません。

被害者側の弁護士は、治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害、逸失利益などを整理し、加害者や保険会社との示談交渉、必要に応じて民事訴訟などを担当します。重大な交通事故では損害項目も金額も複雑になるため、専門家へ相談する重要性が高くなります。

また刑事手続でも一定の事件には被害者参加制度や国選被害者参加弁護士制度があります。ドラマや漫画の台詞を理解するときには、「加害者を処罰する刑事手続」と「被害者が賠償を求める民事手続」を別々に考えると、被害者・検察官・弁護士それぞれの役割が分かりやすくなります。

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