人間関係のトラブルで警察が介入し、「もう連絡しないでください」「会わないでください」「今後会えばストーカーとして扱われる可能性があります」などと言われることがあります。しかし、このような警察官からの口頭での注意と、ストーカー規制法に基づく正式な警告・禁止命令、裁判所が発令するDV防止法上の保護命令は同じものではありません。
また、当事者同士で口論や身体的な接触があった場合には、ストーカー問題とは別に暴行罪や傷害罪が成立する可能性もあります。「相手にも非があるからストーカーにはならない」「こちらにも痣があるから相手への連絡を続けてもよい」という関係にはならず、それぞれの行為が個別に判断されるのが基本です。
ここでは、ストーカー規制法の対象になる行為、警察から「会わないように」と言われた場合の意味、禁止命令の期間、自宅に警察官が来た場合の対応、双方に痣などのけががある場合の考え方を、警察庁の公表資料をもとに整理します。
「付き合っていない相手」でもストーカー規制法の対象になることがある
ストーカー規制法というと元恋人や元配偶者を想像しやすいものの、法律上の判断は「正式に交際していたか」という肩書だけで決まるものではありません。
警察庁は、恋愛感情その他の好意の感情、またはその感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で一定の行為をすることを「つきまとい等」として説明しています。したがって、恋人という合意がなかった友人、知人、同僚などとの関係でも、具体的な感情や行為によっては規制対象になり得ます。[参照] 警察庁「ストーカー規制法の規制対象行為」
「交際していなかったからストーカーには絶対にならない」という理解は正確ではありません。反対に、単に知人へ一度電話した、偶然会ったというだけで直ちにストーカー行為になるわけでもありません。目的、拒絶の有無、回数、行為の態様などを含めて判断されます。
何度も電話するとストーカーになる?連続電話も規制対象
特に注意したいのが電話やメッセージです。警察庁が示す規制対象には、無言電話や、拒まれたにもかかわらず連続して電話をかけること、文書・FAX・電子メール・SNSメッセージなどを連続して送ることが含まれています。[参照] 警察庁「ストーカーとは」
例えば、相手が電話に出ないため不安になり、短時間に何度も電話するケースでは、本人には「話したい」「心配だから確認したい」という理由があったとしても、相手が連絡を拒絶している状況で繰り返せば法的な問題へ発展する可能性があります。
相手の勤務先への連絡についても注意が必要です。仕事上必要な連絡とは異なり、人間関係のトラブルを理由として本人への接触を続けたり、勤務先を介して接触しようとしたりすると、状況をさらに複雑にすることがあります。警察から接触しないよう明確に指示されている段階では、本人だけでなく職場や家族を経由した間接的な接触も自己判断で行わないほうが安全です。
警察から「お互い会わないで」と言われたら正式な禁止命令なのか
ここは非常に重要なポイントです。警察官から口頭で「今後は会わないでください」「連絡しないでください」と説明されたからといって、それだけで必ずストーカー規制法上の正式な「禁止命令等」が発令されたとは限りません。
ストーカー事案では、事情聴取や口頭注意、警告、禁止命令、検挙など、事案に応じて異なる対応があります。警察庁も、ストーカー事案について被害者の安全確保を優先し、法令の適用による検挙だけでなく、さまざまな保護・行政上の措置を組み合わせて対応しています。[参照] 警察庁「ストーカー・DV等対策」
したがって「1年間会えないのか」を確認したい場合、まず必要なのは自分に対して何という法的措置が取られたのかを確認することです。「口頭での注意なのか」「警告なのか」「ストーカー規制法第5条の禁止命令等なのか」を担当警察署に確認すると整理できます。
ストーカー規制法の禁止命令は原則1年間
ストーカー規制法に基づく正式な禁止命令等であれば、有効期間について明確なルールがあります。警察庁の2026年の運用通達では、禁止命令等の効力は命令をした日から起算して1年間とされています。[参照] 警察庁「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項」
ただし「1年たてば必ずすべて終了」という意味でもありません。継続する必要があると認められる場合には、有効期間を延長する制度があります。相手方の不安の状況や、それまでの行為などを総合的に考慮して判断されます。
また、警察官から口頭で接触しないよう注意されただけの場合に、「その注意も法律上ちょうど1年間続く」と一律に決まっているわけではありません。「警察に会うなと言われた=必ず1年間の接近禁止命令」と考えないことが重要です。
ストーカーの禁止命令とDVの「接近禁止命令」は別制度
「接近禁止命令」という言葉はDV防止法でも使われるため、ストーカー規制法の禁止命令と混同されることがあります。しかし、この2つは別の制度です。
DV防止法上の保護命令は裁判所が発令する制度です。現在のDV防止法では、被害者への接近禁止命令等の有効期間は1年間とされています。[参照] 警察庁「改正配偶者暴力防止法の施行について」
一方、ストーカー規制法では公安委員会等による禁止命令等があります。そのため「警察から接近禁止と言われた」という記憶だけでは、どの制度なのか判断できません。書類を受け取っている場合には、その書類の名称と根拠法令を確認するのが確実です。
双方が同意して会えば大丈夫とは限らない
人間関係が落ち着いた後、「お互いが会いたいと言えば会ってもいいのでは」と考えることもあります。しかし、正式な禁止命令等が出ている場合には自己判断を避けるべきです。
特にストーカー規制法上の禁止命令に違反する行為は刑事上の問題につながり得ます。警察庁は、禁止命令を受けていた人物が相手の勤務先付近をうろついたため、ストーカー規制法違反で逮捕された事例も紹介しています。
そのため、警察から双方に接触しないよう言われている場合は、少なくとも措置の内容が確認できるまでは電話、SNS、訪問、待ち伏せなどの直接接触をしないことが安全です。必要な物品の返却や事務連絡があるなら、担当警察官や弁護士などを通じた方法を相談するほうがトラブルを防げます。
私服警察官が自宅に来ることはある
警察官が制服ではなく私服で自宅を訪問すること自体はあり得ます。刑事や生活安全部門などの警察官が私服で活動することは珍しいことではなく、「私服だった」という事情だけで不審な訪問とは判断できません。
ただし、自宅を訪問することと、本人の意思に反して自由に家の中へ入って捜索できることは別問題です。捜索・差押えなどの強制処分には法律上の要件があります。一方で、本人が入室を了承した場合や、逮捕・令状執行など別の法的根拠がある場合では事情が変わります。
突然の訪問で状況が分からなかった場合には、警察署名、所属、氏名、訪問目的、任意の事情聴取なのか、令状などに基づく手続なのかを確認することが大切です。不審に思った場合は、相手から教えられた番号ではなく自分で警察署の代表番号を調べ、所属を確認する方法もあります。
手や膝に痣ができたら傷害罪になる?
口論の際に相手から叩かれたり押されたりした場合には、ストーカー問題とは別に暴行・傷害の問題が生じる可能性があります。一般に、暴行によってけがという結果が生じれば傷害罪が問題となり、けがに至らない身体への有形力の行使では暴行罪が問題となります。
ただし、痣があるという一点だけから「相手は傷害罪で確定」と判断することはできません。誰が、いつ、どのような行為をし、その痣がその行為によって生じたのかという事実関係が必要です。双方が手を出しているケースでは、それぞれの行為について経緯や正当防衛の成否なども含めて個別に判断されます。
けがについて刑事上の対応を求める場合は、痣が消える前に写真を残し、医療機関を受診して診断を受け、発生日時や場所、具体的な行為、目撃者、メッセージなどの資料を整理したうえで警察に相談する方法があります。警察から別の相談窓口を案内された場合でも、けがについて被害申告をしたいのであれば、その意思と具体的な事実を明確に伝えることが重要です。
「労基に相談してください」と言われるケースとの違い
相手が勤務先の上司や同僚で、暴言、ハラスメント、職場でのトラブルなどが絡んでいる場合、警察から労働基準監督署など労働関係の相談先を案内されることがあります。ただし、職場の問題と犯罪の成否は必ずしも同じではありません。
例えば、業務上のハラスメントや雇用関係の問題は労働相談の対象となり得る一方、実際に殴る・叩くなどの行為があれば、事情によって暴行罪や傷害罪が問題になる可能性があります。「労働問題が含まれているから刑事事件には絶対ならない」ということではありません。
逆に、「頭が悪い」「病気だ」など不快な発言をされたというだけで、直ちに傷害罪になるわけでもありません。暴言、ハラスメント、名誉・人格権の侵害、身体への暴力などは、それぞれ法的な論点が異なるため分けて整理する必要があります。
精神疾患や障害者手帳の有無でストーカーの判断は決まらない
ストーカー規制法上の判断において、精神科や心療内科への通院歴、入院歴、障害者手帳を持っていることだけを理由にストーカーになるわけではありません。重要なのは具体的にどのような行為が行われたかです。
一方で、強い不安から連続して電話をしてしまうなど、本人にとって行動を止めることが難しい状態にある場合には、警察の指示を守るための支援を医療機関等に相談することも選択肢になります。警察庁もストーカー対策の一環として、警察と地域の精神科医療機関等との連携を進めています。
大切なのは、病気を理由に自分や相手の行為を一括して評価するのではなく、現在の安全確保と具体的な行為を分けて考えることです。
警察が介入した後に避けたい行動
警察から接触を控えるよう求められた後は、感情的になって「最後に一度だけ説明したい」「謝罪だけしたい」と連絡することが事態を悪化させる場合があります。
- 相手に何度も電話をかける
- LINEやSNSで連続してメッセージを送る
- 相手の自宅や勤務先へ行く
- 勤務先付近で相手を待つ
- 家族や同僚に頼んで本人へ連絡してもらう
- 別アカウントを作って連絡する
- 相手の行動を確認するため後を追う
警察庁が示している規制対象には、拒否後の連続電話・メッセージ、面会要求、押し掛け、待ち伏せ、見張り、うろつきなどが含まれています。自分では仲直りのための行動だと思っていても、相手が拒否している状況では法的評価が異なる可能性があります。
また、双方に言い分がある場合でも、「相手が先にひどいことを言ったから連絡してよい」ということにはなりません。相手から受けた暴力等については別途証拠を整理して相談し、自分は接触を止めるという切り分けが重要です。
今の段階で確認しておきたいこと
警察がすでに介入しているケースでは、ネット上の一般論だけから自分に出された措置を判断することはできません。まず、警察から受け取った書類をすべて確認します。
| 確認事項 | ポイント |
|---|---|
| 警察から書面を受け取ったか | 書類の名称・発行者・日付を確認 |
| 口頭注意なのか | 担当警察官に措置の名称を確認 |
| 禁止命令等なのか | 正式な禁止命令なら原則1年間の有効期間がある |
| 接触してはいけない範囲 | 電話、SNS、面会、勤務先への訪問などを確認 |
| けががあるか | 写真・診断書・日時・経緯を保存 |
| 職場トラブルがあるか | 刑事問題と労働問題を分けて整理 |
特に「お互い会えば逮捕される」と説明された場合、その言葉だけを自己流に解釈せず、担当警察署に「これはストーカー規制法上の禁止命令ですか」「期間はいつまでですか」「禁止されている具体的な行為は何ですか」と確認するのが確実です。
双方に暴行、勤務先への連絡、ストーカー規制法上の問題など複数の論点がある場合には、法テラスや弁護士への相談も有効です。相手と直接話して解決しようとせず、第三者を介して法的関係を整理するほうが安全です。
まとめ|「会うとストーカー」と言われたら、まず正式な措置の内容を確認する
ストーカー規制法では、正式に付き合っていたかどうかだけで対象が決まるわけではありません。恋愛感情その他の好意の感情などを背景として、拒まれた後も連続して電話する、面会を要求する、自宅や勤務先へ押し掛けるといった行為は規制対象となる可能性があります。
一方、警察官から口頭で「もう会わないで」と言われたことと、ストーカー規制法に基づく正式な禁止命令等は区別する必要があります。正式な禁止命令等の有効期間は原則として命令の日から1年間ですが、必要が認められれば延長されることがあります。単なる口頭注意について「必ず1年間」と一律に考えることはできません。
また、双方に痣やけががあるなら、それはストーカー問題とは別に暴行・傷害の問題となる可能性があります。相手から受けた行為については写真、診断書、メッセージなどを保存して警察や弁護士へ相談し、自分から相手への接触については警察の指示に従うという形で分けて対応することが重要です。
警察がすでに介入している状況では、仲直りや説明のためであっても自己判断で電話・SNS・訪問を再開しないことが最も重要です。まず担当警察署に措置の正式名称、根拠、期間、禁止されている行為の範囲を確認し、必要であれば弁護士など第三者を通じて整理するのが安全な対応です。