昔いじめていた人の店に口コミを書いてもいい?名誉毀損・開示請求のリスクと「事実ならOK」の誤解を解説

学生時代にいじめを受け、その相手が後に飲食店などを経営していることを知ったとき、口コミサイトに過去の行為を書きたくなることがあります。しかし、Googleマップなどの店舗口コミは基本的に「その店を利用した体験」を共有する場所です。店での接客や料理とは無関係な学生時代の出来事を書き込むと、口コミサービスの規約だけでなく、名誉毀損などの法的問題に発展する可能性があります。

特に注意したいのが、「本当のことなら名誉毀損にならない」という理解は正確ではないことです。刑法230条の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合について、その事実の有無にかかわらず成立し得る仕組みになっています。一方、公共性・公益目的・真実性など一定の要件を満たす場合には刑法230条の2の特例があります。[参照] e-Gov法令検索「刑法」

結論を先に整理すると、昔のいじめについて店の口コミ欄へ書くことは、たとえ本人にとって事実であっても法的リスクがなくなるわけではなく、店の利用体験と無関係なら口コミサイトのポリシーにも抵触しやすいため、基本的には避けたほうが安全です。

「昔いじめをしていた」と口コミに書くと名誉毀損になる?

刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」を名誉毀損罪の対象としています。現在の法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

インターネット上の店舗口コミは、不特定または多数の人が閲覧できる状態になるのが通常です。そのため、特定の店主について「この人は学生時代に○○をしていた」「同級生をいじめていた」など社会的評価を低下させ得る具体的な事実を投稿すれば、名誉毀損が問題となる可能性があります。

店名と店主との関係が公になっている場合など、氏名を書いていなくても「誰について書いているのか」が閲覧者に分かることがあります。「実名を書かなければ絶対に大丈夫」と考えることもできません。

本当のことなら書いても問題ない、とは限らない

名誉毀損で特に誤解されやすいポイントです。刑法230条には「その事実の有無にかかわらず」と規定されています。つまり、投稿内容が真実だったという一点だけで直ちに名誉毀損の問題がなくなるわけではありません。

刑法230条の2には例外があります。摘示した事実が公共の利害に関係し、目的が専ら公益を図ることにあり、さらに事実が真実であることの証明があった場合には処罰しないという規定です。

例えば公職にある人物の職務上の不正について公益目的で報道する場面と、個人的な恨みから昔の同級生の過去を店の口コミ欄で公表する場面では事情が大きく異なります。「本当の話だから自由にネットへ書ける」というルールではありません。

昔のいじめと現在の飲食店の評価は分けて考える

口コミサイトの本来の役割から考えても、学生時代の出来事と現在の店舗利用体験は分けたほうがよいでしょう。飲食店の口コミで他の利用者が知りたいのは、料理、価格、接客、衛生状態、待ち時間など、その店を利用する際に参考となる情報だからです。

例えば実際に店を訪れて「注文から提供まで40分かかった」「注文した商品と違うものが提供された」と書くのは、その店で経験した出来事についてのレビューです。

これに対し「店主は高校時代に私をいじめていたので星1です」という投稿は、現在の店で受けたサービスについての評価ではありません。過去の個人的関係を利用して店舗評価を下げる行為と判断される可能性があります。

Googleマップの口コミポリシーでも問題になる可能性がある

Googleマップの投稿ポリシーでは、口コミは店や場所での実体験に基づく必要があるとされています。実体験に基づいていないコンテンツや、対象となる場所・商品を正確に反映していない内容は認められない場合があります。[参照] Google「禁止または制限されているコンテンツ」

さらにGoogleは、場所と無関係な口コミ、中傷的な表現、個人攻撃、不必要または不正確なコンテンツなどをポリシー違反として扱っています。個人や企業へのハラスメント、晒し行為、根拠のない犯罪・非倫理的行為の主張などについても制限があります。[参照] Google「マップのユーザー作成コンテンツに関するポリシー」

したがって、法的に名誉毀損が成立するかどうかとは別に、学生時代の人間関係について飲食店の口コミ欄へ投稿すれば、Google側の判断で削除される可能性があります。重大または繰り返しのポリシー違反では、投稿機能などが制限される場合もあります。

匿名アカウントなら身元は分からない?

口コミを匿名やニックネームで投稿しても、「絶対に身元が判明しない」と考えるべきではありません。インターネット上で権利侵害を受けたとする人には、一定の要件を満たした場合に発信者情報の開示を求める法的制度があります。

現在の情報流通プラットフォーム対処法では、権利侵害が明らかであることや、損害賠償請求権の行使など開示を受ける正当な理由があることなど、法律上の要件を満たす場合に発信者情報を請求できる制度が設けられています。[参照] e-Gov法令検索「情報流通プラットフォーム対処法」

裁判所には「発信者情報開示命令」という手続もあります。東京地方裁判所の案内でも、SNS等のインターネット上の投稿で権利を侵害されたとする人が、一定の要件の下でプラットフォーム側にIPアドレス等、アクセスプロバイダ側などに氏名・住所等の開示を求められることが説明されています。[参照] 東京地方裁判所「発信者情報開示命令申立て」

書き込めば必ず開示されるわけでもない

一方で、「悪い口コミを書いたら店側が申請するだけで住所や氏名が自動的に開示される」という仕組みでもありません。開示には法律上の要件があり、権利侵害が明らかであることなどが問題になります。

したがって、「開示請求されたら100%開示される」「匿名なら100%安全」という両極端な説明はいずれも正確ではありません。投稿内容、文脈、対象者の特定可能性、権利侵害の有無などによって判断が変わります。

ただし、投稿者側から見れば、相手が開示請求や削除請求、損害賠償請求などの手段を取る可能性そのものは考慮しておく必要があります。「匿名だから何を書いても本人には分からない」という前提で投稿するのは危険です。

名誉毀損罪と損害賠償請求は別の問題

口コミをめぐるトラブルでは、「名誉毀損罪で逮捕されるか」という刑事上の問題だけに注目しがちですが、民事上の責任も別に考える必要があります。

名誉を違法に侵害したと判断されれば、投稿の削除や損害賠償などが問題となる場合があります。つまり刑事事件にならなかったからといって、民事上も何の責任も生じないとは限りません。

反対に、開示請求が行われたからといって、その時点で名誉毀損罪が確定したわけでもありません。発信者情報開示、民事上の損害賠償、刑事上の名誉毀損は関連することがありますが、それぞれ別の制度・手続です。

「いじめ」という言葉にも事実と評価が混在している

口コミへ「この店主は昔いじめをしていた」とだけ書く場合にも注意が必要です。「いじめ」という表現の中には、具体的な出来事についての主張と、その出来事に対する評価が混在することがあります。

例えば「高校2年の○月に教室で○○をされた」という記述と、「この人は最低の人間だ」という記述では性質が異なります。前者は具体的事実の摘示として評価され得る一方、後者のような表現では侮辱など別の問題も生じ得ます。

また、何年も前の出来事になると、当事者双方の認識が異なったり、証拠が残っていなかったりすることもあります。「自分は確実に覚えている」ということと、紛争になった際に客観的資料によって立証できることも同じではありません。

証拠がある場合でも口コミ欄が適切な公表場所とは限らない

学校への相談記録、当時のメッセージ、写真、録音、第三者の証言などが残っているケースもあります。しかし、証拠があることと、それを飲食店の口コミ欄で公開することの適否は別問題です。

口コミは店舗を利用しようとしている第三者へ店の利用体験を共有する場所です。学生時代のトラブルについて責任を求めたいのであれば、店舗レビューを使って店の評価を下げる方法より、法律相談など目的に合った手段を検討したほうが安全です。

「事実を証明できるから投稿してよい」ではなく、「その事実を、この場所で、この目的で、不特定多数へ公開する必要性があるのか」まで考える必要があります。

店を実際に利用した場合はどこまで口コミを書ける?

実際にその飲食店を利用したのであれば、その店舗で経験したことについて口コミを書くこと自体は通常のレビュー行為です。ただし、実際の経験に即し、必要以上に相手を攻撃しないことが重要です。

例えば「注文した料理が提供されるまで50分かかった」「予約時間に行ったが席が用意されていなかった」といった記述は、具体的な利用体験を説明しています。

一方で、そのレビューに「ちなみに店主は学生時代に私をいじめた人物です」と付け加えると、現在の店舗利用とは直接関係のない情報を公表することになります。料理や接客への正当なレビューまで、過去の個人的トラブルと混ぜないほうがよいでしょう。

星1だけ付ける方法なら安全とは限らない

文章を書かずに星1評価だけを付ければ絶対に問題にならない、とも言い切れません。少なくともGoogleマップのポリシーでは、評価もビジネスでの実際の体験を反映したものであることが求められています。

店舗を利用していないにもかかわらず、学生時代の恨みを理由として最低評価を付ける行為は、店舗サービスについての実体験を反映した評価とは言いにくいでしょう。Googleは、実体験に基づいていないコンテンツや評価の操作を禁止しています。

そのため、「文章を書かなければ大丈夫」と形式だけを変えるより、店舗での実体験がないのであれば、そもそも店舗レビューを復讐や抗議の手段として使わないことが最もトラブルを避けやすい選択です。

過去のいじめについて何かしたい場合の選択肢

過去のいじめについて現在も責任を問いたい、謝罪を求めたい、精神的な整理がつかないという場合には、口コミサイトへの投稿とは別の方法を検討できます。

法的な責任を問える可能性があるのか知りたい場合は、証拠や出来事の時期を整理した上で弁護士などへ相談する方法があります。時間が経過しているケースでは時効なども関係するため、個別事情を専門家に確認する必要があります。

少なくとも、怒りが強い状態で店舗名と結び付けてSNSや口コミサイトへ投稿し、その後に削除する方法はおすすめできません。スクリーンショットなどで保存されれば、後から自分で削除しても投稿した事実や内容が残る可能性があります。

口コミ投稿前に確認したいポイント

確認事項 考え方
実際にその店を利用したか 利用していないなら店舗口コミへの投稿は避けるのが安全
店での出来事か 学生時代の出来事は現在の店舗利用とは通常別問題
事実なら書けるか 真実だけで名誉毀損の問題が自動的になくなるわけではない
匿名なら安全か 一定の要件を満たせば発信者情報開示の制度がある
星1だけなら安全か 店舗利用と無関係な評価はプラットフォームのポリシー上問題になる可能性がある
投稿を消せば終わるか スクリーンショット等で記録が残る可能性がある
過去の責任を問いたい 口コミではなく法律相談など目的に合った方法を検討する

特に重要なのは、「昔の相手について何か言いたい」という問題と「現在の店について消費者として評価する」という問題を切り離すことです。

店舗レビューには店舗で実際に経験した内容だけを書く、利用していないなら評価しない、過去の問題を法的に扱いたいなら別の手段を利用する、という整理が最もトラブルを避けやすくなります。

まとめ|過去のいじめを店の口コミへ書くのは避けたほうが安全

学生時代にいじめをしていた人物が飲食店を始めたとしても、その過去を店舗口コミへ書くことには法的・規約上のリスクがあります。特に「事実だから名誉毀損にはならない」という考え方には注意が必要です。

刑法230条では、事実の有無にかかわらず、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する行為が名誉毀損罪の対象になり得ます。刑法230条の2には公共性・公益目的・真実性などに関する特例がありますが、個人的な過去のトラブルを店舗レビューで公表するケースに当然適用されるわけではありません。

また、匿名の口コミでも、権利侵害が明らかで開示を受ける正当な理由があるなど法定の要件を満たす場合には、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示や裁判所の発信者情報開示命令が利用される可能性があります。匿名だから身元が絶対に分からないという保証はありません。

店舗口コミは、その店で実際に受けたサービスや料理などを評価する場所として使い、学生時代のいじめについては切り離して考えるのが安全です。過去のいじめについて法的責任を問いたい事情がある場合には、口コミによる公開ではなく、証拠を整理した上で弁護士などへ相談する方法が適しています。

※本記事は2026年8月時点の刑法、情報流通プラットフォーム対処法、裁判所およびGoogleの公開情報をもとに一般的な考え方を解説しています。名誉毀損等の成否は投稿内容、文脈、対象者の特定可能性、公共性・公益目的、証拠などによって個別に判断されます。具体的な投稿について法的判断が必要な場合は弁護士等の専門家へ相談してください。

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