勤務日の休憩時間中に車で私用の外出をして物損事故を起こした場合、「勤務中なのだから会社にも責任があるのではないか」「修理代や賠償金を会社が負担してくれるのではないか」と疑問に思うことがあります。しかし、事故が勤務日の休憩中に発生したというだけで、会社が損害を負担することになるわけではありません。
特に、休憩時間を利用して食事、買い物、自宅への用事など会社の業務とは関係のない私用で外出し、その途中で事故を起こした場合は、原則として事故を起こした本人と使用した車の自動車保険で処理する問題と考えるのが基本です。一方、会社の指示による用事を兼ねていた、会社の車を使用していたなどの事情があれば結論が変わる可能性があります。
また、「保険金を全額自分が負担する」という表現も少し整理が必要です。相手方への損害賠償、任意保険から支払われる保険金、自分の車の修理費、免責金額などはそれぞれ別の問題です。この記事では、休憩中の私用外出で起こした物損事故について、会社が支払うケースと本人負担になるケース、自動車保険の確認ポイントを法律上の考え方とともに解説します。
休憩時間は原則として労働者が自由に利用できる時間
まず、労働法上の「休憩時間」がどのような時間なのかを確認しておきましょう。労働基準法34条3項では、使用者は休憩時間を労働者に自由に利用させなければならないと定めています。厚生労働省も、休憩時間は労働者が自由に利用できるものであり、休憩中にも電話対応や来客対応を指示されているなら、その時間は休憩ではなく労働時間と評価され得ると説明しています。[参照:厚生労働省「労働条件・職場環境に関するルール」]
したがって、本当の休憩時間中に昼食を買いに行く、銀行へ行く、個人的な買い物をするなどの行動は、基本的には本人の自由時間における行動です。会社から指示されて行っている業務とは性質が異なります。
この点が交通事故の責任を考えるうえでも重要です。「会社にいる日の昼休み」というだけでは、休憩中の私的行動まで会社の業務になるわけではありません。
私用外出中の物損事故なら会社が当然に払うわけではない
例えば12時から13時までが休憩時間で、従業員が自分の車を使って個人的な買い物へ出掛け、駐車場で他人の車にぶつけたとします。この場合、事故は勤務日の途中に起きていますが、買い物そのものは会社から指示された仕事ではありません。
そのため一般的には、相手方への損害賠償については事故を起こした本人の責任と、その車に付いている任意自動車保険を中心に処理することになります。会社が「従業員だから」という理由だけで修理代や賠償金を負担する義務が生じるわけではありません。
民法715条は、従業員が第三者へ損害を与えた場合の使用者責任について、従業員が「その事業の執行について」第三者へ与えた損害であることを要件としています。純粋な私用による休憩中の運転は、通常、この業務との関連性が問題になります。[参照:e-Gov法令検索「民法第715条」]
会社が責任を負う可能性が出てくるのは業務との関連がある場合
反対に、表面的には休憩時間中でも、会社の業務と密接に関係している場合には判断が変わる可能性があります。会社から頼まれて取引先へ書類を届ける、会社用品を購入する、上司から「昼休みの間にこれを届けてほしい」と指示されるなどのケースです。
例えば昼食を買いに自分の車で外出する際、上司から「ついでに会社で使う備品を買ってきて」と頼まれ、その途中に事故を起こした場合です。このようなケースでは、完全な私用だけの運転とは異なり、事故と業務との関連性について具体的に検討する必要があります。
民法715条による使用者責任が成立するかどうかは、単に事故発生時刻が勤務時間内だったかではなく、事故を起こした行為が会社の事業の執行とどの程度関係していたかによって判断されます。そのため「休憩中なら必ず本人負担」「勤務時間内なら必ず会社負担」という単純な線引きではありません。
自分の車か会社の車かでも大きく変わる
事故に使った車が誰のものだったかも非常に重要です。自分のマイカーを休憩中の私用に使用したのであれば、通常はその車について契約している任意自動車保険を確認します。対物賠償保険が付いており、運転者の年齢条件や本人限定などの契約条件にも該当していれば、相手の車や物への損害について保険会社から保険金が支払われる可能性があります。
一方、会社所有の社用車を私用で使って事故を起こした場合は複雑です。会社の自動車保険で補償対象になるかどうかは、契約内容、運転者の範囲、私的利用が補償される契約なのか、会社から使用許可を得ていたかなどによって変わります。
会社の保険が利用できたとしても、だからといって事故を起こした従業員が必ず一切負担しなくてよいとは限りません。逆に、社用車だったからといって会社が必ず全額を従業員へ請求できるとも限りません。事故原因、会社の車両管理、業務との関係、就業規則や社内規程などを含めて判断することになります。
物損事故では自賠責保険は使えない
ここで注意したいのが、自賠責保険と任意自動車保険の違いです。すべての自動車に加入が義務付けられている自賠責保険は、人身事故による対人損害を補償する制度です。
国土交通省は、物損事故は自賠責保険・共済の補償対象にならないと明確に説明しています。相手の自動車、ガードレール、店舗設備などを壊しただけの事故について、自賠責保険から修理代が支払われることはありません。[参照:国土交通省「自賠責保険・共済ってどんなもの?」]
物損について重要になるのは任意保険の「対物賠償保険」です。任意保険に加入していない場合や、契約上その運転が補償対象外だった場合には、相手方への賠償を本人が負担する可能性があります。
「全額自己負担」になるかは任意保険の内容次第
物損事故を起こしたからといって、損害額のすべてを必ず本人の現金で支払うわけではありません。例えば相手方の車の修理費が50万円で、事故を起こした車に対物賠償保険が付いており、事故が補償対象なら、通常は保険会社が契約内容に基づいて相手方との示談交渉や保険金の支払いを行います。
一方、自分自身の車の修理費は対物賠償保険では補償されません。自分の車については車両保険へ加入しているか、今回の事故形態が車両保険の対象になるかを確認する必要があります。
| 損害の種類 | 主に確認するもの |
|---|---|
| 相手の車の修理費 | 対物賠償保険 |
| 店舗・塀・ガードレールなど | 対物賠償保険 |
| 自分の車の修理費 | 車両保険 |
| 相手のけが | 自賠責保険・対人賠償保険 |
| 保険で補償されない部分 | 事故当事者本人などが負担する可能性 |
したがって、「会社が払わない=全損害を現金で自分が払う」とも限りません。まず加入している自動車保険会社へ事故を連絡し、何が補償対象になるのか確認することが先です。
会社が保険料の値上がり分まで負担してくれるとは限らない
任意保険を使用すると、契約内容によって翌年度以降の等級や保険料へ影響することがあります。そのため、「修理代は保険会社から出るが、翌年から保険料が上がる」というケースも考えられます。
自分の車で純粋な私用中に事故を起こしたのであれば、この保険料上昇分を会社へ請求できるのが一般的というわけではありません。休憩中であっても、会社の業務とは関係のない運転なら本人側で処理するのが通常です。
反対に会社の業務命令でマイカーを使用していた場合には、会社の車両使用規程、マイカー業務使用制度、会社加入の保険などを確認する価値があります。業務使用を会社が認めている企業では、事故時の取扱いを社内規程で定めていることがあります。
社用車の私的利用なら会社の保険会社へまず連絡する
会社の車で事故を起こした場合は、自分だけの判断で相手へ修理代を支払ったり示談書へ署名したりせず、まず会社の責任者へ報告してください。会社が加入する自動車保険の事故受付にも連絡する必要があります。
仮に休憩中の私用だったとしても、保険契約上は補償されることがあります。反対に、私的使用を明確に禁止されていた、無断で社用車を持ち出したなどの事情があれば、会社との内部的な責任問題が生じる可能性もあります。
この場合、「相手に対して会社や保険会社が支払う責任」と「事故後に会社と従業員の間で誰がどの程度負担するか」は別の論点です。相手方への賠償処理が会社の保険で行われたからといって、社内で何の問題も生じないとは限りません。
会社が支払った損害を従業員へ全額請求できるとは限らない
業務中の事故について会社が損害賠償を行った場合、民法715条3項は使用者から従業員への求償権そのものを否定していません。ただし、だからといって会社が支払った金額を常に100%従業員へ請求できるという意味ではありません。[参照:e-Gov法令検索「民法第715条」]
業務上の交通事故で会社が従業員へ求償する場合には、これまでの判例上も、事業の性格、事故の態様、会社による危険管理、保険加入状況などの事情を踏まえ、信義則上求償範囲が制限されることがあります。
ただし、これは主として業務遂行中の事故で問題になる考え方です。純粋な私用運転の場合には、そもそも会社が第三者へ賠償する義務を負うのかという前段階から異なります。
休憩中でも「会社の敷地内」で事故を起こした場合は?
昼休みに自分の車で外へ出ようとして、会社の駐車場で他人の車へ接触したような場合もあります。このケースでも、「会社の敷地内だから会社が賠償する」と単純には決まりません。
私用のため自分の車を運転していた際の操作ミスであれば、基本的には運転者本人とその自動車保険の問題になります。一方、駐車場設備の重大な欠陥が事故原因だったなど、会社側の施設管理にも問題があれば別途検討が必要になる可能性があります。
場所だけで責任主体が決まるわけではなく、誰の車だったのか、何の目的で運転していたのか、誰の過失によって事故が起きたのかを確認する必要があります。
会社への報告はしておいたほうがよい
自分の車による私用事故で会社に賠償義務がないと考えられる場合でも、休憩時間中の事故によって職場へ戻れない、警察対応で休憩時間を超える、けがによって勤務を続けられないといった場合には、会社への連絡が必要です。
また社用車だった場合や、会社が許可しているマイカー業務使用中だった場合には、会社の事故報告手続に従います。事故を隠して後から発覚すると、賠償問題とは別に社内規程上の問題になることがあります。
報告する際には、「休憩中に私用で外出していた」「会社から指示された用事ではなかった」「自家用車だった」など、事故時の状況を正確に伝えることが重要です。
事故後に確認したいポイント
休憩中の物損事故について誰がどこまで負担するのか判断するときは、次の事項を整理すると分かりやすくなります。
- 事故時は正式な休憩時間だったか
- 外出目的は完全な私用だったか
- 会社から何らかの用事を指示されていたか
- 事故車両は自家用車か社用車か
- 社用車の場合、私用について会社の許可があったか
- 任意保険の対物賠償保険へ加入しているか
- 自分の車について車両保険があるか
- 保険の運転者限定・年齢条件などを満たしているか
- 会社にマイカー使用規程や事故負担に関する規程があるか
例えば「昼休みに自家用車でコンビニへ昼食を買いに行く途中だった」というケースと、「昼休みに社用車で会社から頼まれた荷物を運んでいた」というケースでは、同じ休憩時間中の事故でも会社との関係は大きく異なります。
判断に迷う場合は、まず警察への届出と保険会社への事故連絡を済ませ、会社との負担関係については車両規程や就業規則も確認するとよいでしょう。
物損事故だから警察へ届けなくてもよいわけではない
けが人がいない物損事故でも、道路上で交通事故を起こした場合には警察への報告が必要です。「相手とその場で話がまとまったから」「小さな傷だから」という理由で警察への届出を省略するのは避けましょう。
また保険会社へ事故報告する際にも、事故日時、場所、相手方情報、警察への届出状況などを確認されることがあります。相手とその場で金額を決めて現金を渡すのではなく、任意保険へ加入しているなら保険会社へ早めに相談するのが安全です。
事故後になって相手が追加損害を主張するケースもあるため、写真、ドライブレコーダー映像、相手の連絡先なども保存しておきます。
まとめ|休憩中の「私用事故」なら本人の保険で処理するのが基本。会社負担は業務との関係で変わる
仕事の休憩時間中に完全な私用で外出し、自家用車で物損事故を起こしたのであれば、一般的には会社が損害を負担するのではなく、事故を起こした本人とその車の任意自動車保険を中心に処理することになります。「勤務日の昼休みだった」というだけで会社の賠償責任が生じるわけではありません。
これは、労働基準法上、休憩時間が原則として労働者の自由利用に委ねられていることとも整合します。また民法715条の使用者責任も、従業員が会社の事業の執行について第三者へ損害を与えた場合を対象としているため、完全な私的行動とは区別して考える必要があります。[参照:厚生労働省] [参照:e-Gov法令検索「民法」]
ただし、会社から頼まれた用事の途中だった、社用車を利用していた、業務と私用を兼ねていた場合には、会社の責任や会社加入の保険が関係する可能性があります。その場合は「休憩中」という一点だけで自己負担と判断せず、事故の目的や車両の所有関係、保険契約を確認する必要があります。
また、物損事故について自賠責保険は利用できません。相手の車や物への賠償については主として任意保険の対物賠償、自分の車については車両保険を確認します。したがって、会社へ支払いを求めるかどうかを考える前に、まず警察への届出を行い、事故を起こした車の任意保険会社へ連絡して補償範囲を確認するのが適切です。[参照:国土交通省「自賠責保険・共済ってどんなもの?」]