離婚後に元配偶者から高額な財産分与を請求されると、現在の預金が少なかったり、子どもを育てるために収入が下がっていたりする場合、「今のお金がないのに払わなければならないのか」と不安になりやすいものです。
財産分与で重要なのは、現在の預金残高だけではありません。基本的には夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産がどれだけあり、それをどのように分けるべきかが問題になります。離婚後に家を建てたことや年収が下がったことだけで、過去に形成した共有財産に対する相手の権利が当然になくなるわけではありません。
また、元配偶者の不貞、子どもをどちらが監護しているか、養育費の未払い、離婚後の住宅購入は、それぞれ重要な事情ではあるものの、財産分与とは法的な位置付けが異なります。ここでは2026年4月施行の改正民法も踏まえ、離婚後の財産分与を整理します。
財産分与は「離婚時の財産を半分渡す」だけの制度ではない
裁判所は、財産分与について「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際又は離婚後に分けること」と説明しています。対象となり得るのは預貯金だけではなく、不動産、株式なども含まれます。[裁判所・家事事件Q&A参照]
一方、結婚する前から所有していた財産や、婚姻中でも相続・贈与によって一方だけが取得した財産などは、原則として財産分与の対象とは異なる「特有財産」として扱われます。
したがって「10年間結婚していたから1,000万円払う」「相手から1,000万円請求されたから1,000万円が確定する」というものではありません。まず基準となる時点の財産を洗い出し、共有財産と特有財産を区別する作業が必要です。
2026年4月から財産形成への寄与割合は原則2分の1と明確化
2026年4月1日に施行された改正民法では、財産分与に関するルールも見直されました。法務省は、婚姻中の財産の取得・維持に対する夫婦の寄与割合について、異なることが明らかでない場合には原則として2分の1ずつとするルールを明確化しています。[法務省・財産分与に関するルールの見直し参照]
例えば婚姻中に夫名義の預金が1,500万円、妻名義の預金が500万円形成され、それがすべて共有財産と評価される単純な例なら、名義だけを見て夫1,500万円・妻500万円と確定するわけではありません。合計2,000万円を基礎に分与を検討することになります。
専業主婦・専業主夫で直接的な給与収入がなかったとしても、それだけで寄与がゼロになるわけではありません。家事や育児によって他方の就労・財産形成を支えていたことも考慮されるためです。
元妻・元夫の不貞があっても財産分与が自動的にゼロにはならない
離婚原因が一方の不倫・不貞行為だった場合、「離婚の原因を作った側なのだから財産を渡す必要はない」と感じることがあります。しかし、財産分与と不貞慰謝料は基本的に目的が異なります。
財産分与の中心となるのは婚姻中に夫婦が形成した財産の清算です。一方、不貞行為による精神的苦痛について問題になるのが慰謝料です。そのため、不貞をした側だから共有財産に対する財産分与請求権を当然にすべて失う、という仕組みではありません。
ただし、すでに離婚時の合意などで慰謝料や財産分与について取り決めている場合は、その内容が非常に重要です。離婚協議書、公正証書、調停調書などがあるなら、まず何について清算済みと記載されているか確認する必要があります。
子どもを引き取っていることと財産分与は分けて考える
離婚後に子どもを引き取り、仕事を減らしたことで年収が200万円下がったとしても、その事情だけで財産分与が当然に免除されるとは限りません。子どもの生活費については、主として養育費の問題として扱われます。
裁判所も、父母は離婚後も双方の経済力に応じて子どもの養育費を分担する責務があると案内しています。子どもを監護している親は、他方の親に対して家庭裁判所の調停・審判によって養育費を求めることができます。[裁判所・養育費請求調停参照]
つまり「自分が子どもを育てているから財産分与を払わない」という単純な相殺関係ではなく、財産分与は財産分与、養育費は養育費として、それぞれ整理することが基本です。
養育費を払っていない相手でも財産分与を請求できるのか
元配偶者が約束した養育費を支払っていない場合でも、それだけを理由に財産分与請求そのものが消滅するわけではありません。一方で、養育費の未払いを放置する必要もありません。
すでに調停調書、公正証書など強制執行に利用できる書類がある場合には、未払い養育費について給与や預金などへの強制執行を検討できるケースがあります。裁判所には養育費等に基づく差押えの手続も用意されています。[裁判所・養育費等に基づく差押え参照]
2026年4月からは養育費の履行確保に関する制度も強化されています。財産分与を請求されたときには、相手の請求への対応だけでなく、こちら側に未払い養育費の請求権がどれだけあるのかも同時に弁護士へ整理してもらう価値があります。
離婚後に家を建てた場合、その家も財産分与されるのか
ここは時系列が非常に重要です。財産分与は婚姻中に夫婦の協力で形成した財産を清算する制度なので、離婚成立後に自分の収入や自分の借入れだけで取得した新しい財産まで、当然に元配偶者と半分にする制度ではありません。
例えば離婚成立後に住宅ローンを組み、離婚後の給与を使って土地・建物を購入したのであれば、通常は婚姻中に夫婦で形成した財産とは事情が異なります。
ただし頭金に婚姻中の共有財産を使った場合などは問題が複雑になります。「今は家を買ったので預金がない」ことと、「離婚時点で分与対象となる共有財産が存在していたか」は別問題なので、お金の移動を通帳などから確認する必要があります。
離婚後に貯金を使えば財産分与額が減るとは限らない
例えば離婚時に分与対象となり得る預金が1,000万円あったものの、離婚後に住宅購入や生活費として使い、現在100万円しか残っていないケースを考えます。現在残っている100万円だけを見て財産分与を計算できるとは限りません。
財産分与では財産形成・清算の基準時が重要となるため、離婚・別居の時期や夫婦の経済的共同関係がいつ終了したかなど、具体的事情を踏まえて対象財産を確定します。
そのため通帳を処分したり資金移動を繰り返したりするのではなく、婚姻中から現在までのお金の流れを説明できる資料を保存しておくことが大切です。
1,000万円請求されても、その金額がそのまま認められるわけではない
財産分与を請求する側が「1,000万円」と提示しても、それはあくまで請求額です。話合いがまとまらず家庭裁判所の手続になれば、どのような財産が存在し、それが分与対象なのかを資料に基づいて確認します。[裁判所・財産分与請求調停参照]
例えば預貯金、不動産、株式などを一覧にし、それぞれについて婚姻前からの財産なのか、婚姻後に形成されたものなのかを整理します。住宅ローンなど負債が関係する財産についても単純に額面だけでは判断できません。
したがって高額請求を受けた場合には、請求額を見てすぐ支払う・支払えないと判断するのではなく、まず相手に計算根拠と対象財産の内訳を明らかにしてもらうことが重要です。
お金が足りなければ必ず分割払いになるのか
財産分与額が確定したのに手元の現金だけでは支払えないケースは実際にあり得ます。その場合、話合いや調停で支払方法を協議し、一定の条件で分割払いについて合意することは考えられます。
しかし、支払能力がないから当然に長期分割を選択できるという権利があるわけではありません。相手が一括払いを求める場合や、保有財産を処分すれば支払える場合など、事情によって結論は異なります。
特に自宅など高額資産を保有しているケースでは「預金が少ない」という事情だけでは資力を判断できません。住宅ローン残高、不動産価値、その他の財産なども含めて検討する必要があります。
財産分与を請求できる期間にも注意
2026年4月1日から財産分与の請求期間に関するルールが変わりました。現在は原則として離婚の日の翌日から5年を経過すると、家庭裁判所へ財産分与を求める申立てができなくなります。[裁判所・財産分与請求期間参照]
ただし重要な経過措置があります。2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり離婚後2年が基準です。2026年4月1日以降に離婚した場合の5年ルールと混同しないよう注意してください。
離婚した年月日によって請求可能期間が変わるため、離婚後しばらく経ってから請求を受けたケースでは最初に日付を確認する必要があります。
高額な請求なら弁護士へ相談するメリットが大きい
数百万円から1,000万円規模の財産分与を請求されている場合は、弁護士費用を考慮しても専門家へ資料を持参して相談する意味があります。特に不貞慰謝料、未払い養育費、住宅、婚姻前の財産など複数の論点が重なっている場合は、自分だけで整理するのが難しくなります。
相談時には、離婚協議書・公正証書・調停調書、離婚日と別居日が分かる資料、婚姻前後の通帳、証券口座、不動産関係資料、住宅ローン資料、保険、退職金関係資料、養育費の取り決めと入金履歴などを準備すると話が進みやすくなります。
弁護士へ依頼する目的は単純に「財産分与をゼロにする」ことではありません。本当に対象となる共有財産はいくらなのか、相手の1,000万円という計算が正しいのか、こちらの養育費請求をどう進めるのか、支払方法をどう調整するのかを法的に整理することが重要です。
まとめ|不貞や養育費未払いがあっても財産分与は別に計算する
離婚原因が元配偶者の不貞であり、現在は自分が子どもを育て、収入も減少し、相手が養育費を支払っていないとしても、それだけで財産分与請求が当然にゼロになるわけではありません。財産分与では、基本的に婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した共有財産を特定して清算します。
一方で、相手から1,000万円を請求されたからといって、その金額をそのまま支払うことが決まったわけでもありません。婚姻前の財産や相続・贈与による財産は原則として対象外であり、離婚後に取得した住宅についても取得時期や原資を確認する必要があります。
重要なのは「不倫した側なのに財産分与を請求するのはおかしい」という感情論だけで対応せず、財産分与・慰謝料・養育費をそれぞれ分け、離婚時点前後の財産を資料で整理することです。高額請求の場合は、回答や合意を急ぐ前に家事事件を扱う弁護士へ資料一式を見せ、請求額の妥当性と未払い養育費への対応をまとめて確認するのが安全です。