性的な発言、身体への接触、しつこい誘い、つきまといなどの被害を受けたとき、「警察署の生活安全課に相談してよいのか」「会社のセクハラ相談窓口へ行くべきなのか」と迷うことがあります。結論からいうと、生活安全課を含め、警察に性的被害について相談することはできます。ただし、警察署内のどの部署が実際に担当するかは被害内容や各都道府県警察の組織によって異なります。単なる職場上のセクシュアルハラスメントとして労務上の解決を求める場合は会社や都道府県労働局が中心になりますが、身体を触られた、性的行為を強要された、脅された、つきまとわれているなど犯罪に当たる可能性がある場合は警察への相談が重要です。最初から担当部署を正確に選ぶ必要はなく、警察署や#9110などへ事情を伝えれば、内容に応じた部署へ案内・連携してもらうことができます。[参照]
「セクハラ」と「性犯罪」は同じ意味ではない
まず整理したいのは、「セクハラ」という言葉が非常に幅広く使われていることです。職場で上司から性的な冗談を繰り返し言われる行為も、嫌がっているのに身体を触る行為も、日常会話ではどちらも「セクハラ」と呼ばれることがあります。
しかし法律上は扱いが異なります。厚生労働省は、職場で労働者の意に反する性的な言動が行われ、拒否したことによって不利益を受ける「対価型セクシュアルハラスメント」や、性的な言動によって就業環境が害される「環境型セクシュアルハラスメント」を職場のセクハラとして説明しています。[参照]
一方、身体への接触、性的行為の強要、脅迫、盗撮、つきまといなどは、具体的状況によって刑法やストーカー規制法などの犯罪に当たる可能性があります。その場合は「職場のセクハラ問題」であると同時に、警察が扱う可能性のある事件でもあります。
警察の生活安全課にセクハラ被害を相談してもよい
警察署の生活安全部門は、ストーカー、DV、少年問題、防犯相談など市民生活に関係するさまざまな相談を扱っています。そのため性的嫌がらせに加えて、つきまとい、待ち伏せ、執拗な連絡、身の危険などがあるケースでは、生活安全部門が対応や連携に関わることがあります。
ただし、すべての性的被害を必ず「生活安全課」が最終担当するわけではありません。被害内容が性犯罪に当たる可能性があれば、刑事部門や性犯罪捜査を担当する部署などへ引き継がれることがあります。また警察署によって課の名称・組織構成も異なります。
相談する側が「これは生活安全課なのか刑事課なのか」を判断する必要はありません。警察署の受付で「性的な被害について相談したい」と伝えれば、内容に応じた担当者へ案内してもらう方法で問題ありません。
身体を触られた・性行為を強要された場合は警察への相談を検討する
例えば上司から性的な冗談を言われたというケースと、拒否しているのに胸や臀部などを触られたケースでは、警察への相談の重要性が違ってきます。
具体的には、次のような行為がある場合は、職場のハラスメント窓口だけで終わらせず警察や性犯罪被害相談窓口への相談を検討できます。
- 嫌がっているのに身体を触られた
- キスや性的行為を強要された
- 性交等を拒否したのに行われた
- トイレ・更衣室などで盗撮された疑いがある
- 性的な画像を無断で撮影・拡散された
- 断った後につきまとい・待ち伏せ・大量の連絡が続いている
- 性的要求を断ると危害を加える、解雇させるなどと脅された
どの犯罪が成立するかを相談者自身が決める必要はありません。「犯罪になるか分からない」という段階でも警察へ相談できます。
性犯罪・性的な身体被害なら「#8103」も利用できる
性的な身体被害について警察へ相談したい場合には、性犯罪被害相談電話の全国共通番号「#8103(ハートさん)」があります。
警察庁によると、#8103へ電話すると、発信地域を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながります。性別や年齢にかかわらず相談でき、匿名相談も可能と案内されています。[参照]
例えば「職場の人に身体を触られたが、これが警察に相談するほどのことなのか分からない」といった段階でも、状況を説明して相談先や今後の対応を確認できます。
犯罪かどうか分からないなら「#9110」でも相談できる
緊急性はないものの、「警察に相談すべき内容なのか分からない」という場合には、警察相談専用電話「#9110」も利用できます。
警察庁は、#9110について警察への相談全般を受け付け、内容に応じて関係する部署が連携し、助言、相手方への警告、検挙など必要な措置を講じると案内しています。犯罪に当たるか分からない段階でも利用できます。[参照]
そのため「生活安全課へ直接電話してよいか分からない」という場合は、最寄りの警察署へ連絡するか、#9110から相談を始める方法もあります。
今まさに危険がある場合は生活安全課ではなく110番
相談窓口を選んでいる余裕がない状況もあります。相手から暴力を受けている、追いかけられている、自宅や勤務先の前で待ち伏せされている、脅されて身の危険があるなど、緊急性が高い場合は110番が優先です。
#8103についても警察庁は、緊急を要する場合には110番通報をするよう案内しています。[参照]
「生活安全課が開いている時間まで待つ」という必要はありません。危険が迫っている場合はその時点で警察へ助けを求めることが重要です。
言葉だけの職場セクハラは警察より会社・労働局が中心になることもある
一方、性的な発言を繰り返される、容姿について性的なことを言われる、交際をしつこく求められるといった職場上のセクハラでも、それだけで直ちに刑事事件になるとは限りません。
このような職場環境の改善、会社の対応、配置転換、不利益取扱いなどについて解決を求める場合には、まず勤務先の人事・ハラスメント相談窓口、労働組合などが相談先になります。
厚生労働省も、職場のハラスメントについて会社の人事労務担当者や信頼できる上司へ相談し、会社に相談しても対応されない場合には都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ相談するよう案内しています。[参照]
会社が対応してくれない場合は都道府県労働局へ相談できる
事業主には職場のセクシュアルハラスメントを防止するため、相談窓口の整備や、相談があった場合の適切な対応など必要な措置を講じることが求められています。
会社へ相談したにもかかわらず調査してもらえない、被害を訴えたことで不利益を受けたなどの場合には、勤務先所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ相談できます。
厚生労働省では、労働者と事業主の間で男女雇用機会均等法などに関するトラブルが生じた場合、都道府県労働局長による紛争解決援助や調停制度も設けています。[参照]
警察と労働局のどちらか一方しか相談できないわけではない
職場のセクハラが犯罪行為にも当たり得る場合、「会社に相談したから警察には相談できない」「警察へ行ったら労働局は利用できない」ということはありません。
例えば上司から性的な発言を繰り返され、さらに身体を無理やり触られたケースなら、職場環境や会社の対応について会社・労働局へ相談すると同時に、身体への被害について警察へ相談するという方法があります。
つまり、雇用上の問題を解決するルートと、犯罪被害について相談するルートは併用できます。
性暴力被害には「#8891」のワンストップ支援センターもある
性的な身体被害を受け、警察への相談だけでなく医療・心理・法律面の支援も必要な場合には、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを利用できます。
全国共通短縮番号は「#8891(はやくワンストップ)」です。警察庁の犯罪被害者支援情報でも、最寄りのワンストップ支援センターにつながり、医療的支援、法的支援、カウンセリングなどの支援を提供すると案内されています。[参照]
特に被害直後の場合は、必要な診察や証拠採取などについて案内を受けられることがあります。無理に一人で判断せず、早めに相談してよい窓口です。
警察へ行く前に証拠を完璧にそろえる必要はない
「証拠がないと警察に相手にされないのでは」と考えて相談をためらう人もいますが、証拠をすべて集め終わってからでなければ相談できないわけではありません。
ただし、すでに手元にあるものは消さずに保存しておくと状況の説明に役立ちます。
- LINE・メール・SNSのメッセージ
- 性的な発言や脅迫の録音
- 被害日時と内容を記録したメモ
- 身体のケガなどの写真
- 病院の診断書・受診記録
- 会社へ相談したメールや記録
- 目撃者の名前
- 防犯カメラがありそうな場所・時間
防犯カメラなどは保存期間が短い場合があります。犯罪被害の可能性があると考えているなら、「証拠を完璧にしてから」と何週間も待つより、早めに警察へ相談する方がよいケースがあります。
相談するときは「セクハラです」だけでなく具体的な行為を説明する
警察や相談機関へ事情を伝える際は、「セクハラを受けています」という言葉だけでは、具体的な危険性や犯罪の可能性が伝わりにくいことがあります。
例えば「上司からセクハラを受けた」ではなく、「○月○日の午後、二人きりになった際に、拒否したのに身体のこの部分を触られた」「断った後も自宅付近までついてきた」「毎日何十件もメッセージが届いている」と具体的に説明すると状況を把握してもらいやすくなります。
また「相手が怖く、今後エスカレートすることが心配」「勤務先で再び二人きりになる可能性がある」など、現在感じている危険についても伝えて構いません。
生活安全課に断られたらもう警察に相談できない、とは限らない
警察署へ相談した際、「これは生活安全課ではなく別部署です」と案内されることがあります。しかし、それは必ずしも「警察が取り扱わない」という意味ではありません。
性犯罪であれば性犯罪捜査の担当部署、ストーカーであれば生活安全部門、暴行等であれば刑事部門など、内容に応じて担当が変わるためです。
担当部署が分からない場合は、警察署の総合受付で「性的な被害について相談したい。どの課か分からない」と率直に伝える方法が確実です。電話なら#9110、性犯罪・性暴力の被害なら#8103を利用する方法もあります。
まとめ:生活安全課にも相談できるが、被害内容によって担当部署や相談先が変わる
警察の生活安全課に性的な嫌がらせやセクハラ被害について相談すること自体は可能です。特につきまとい、待ち伏せ、執拗な連絡などを伴う場合には、生活安全部門が対応に関わることがあります。
ただし、「セクハラ」と呼ばれる出来事すべてを生活安全課が担当するわけではありません。身体を触られた、性的行為を強要されたなど性犯罪の可能性がある場合は、刑事・性犯罪捜査部門など別部署が担当することがあります。相談者自身が担当課を決める必要はなく、最寄りの警察署へ被害内容を説明すれば適切な部署への案内を受けられます。
犯罪かどうか分からない場合は#9110、性的な身体被害について警察へ相談したい場合は#8103(ハートさん)、医療・心理・法律面を含めた性暴力被害の支援を求める場合は#8891を利用できます。今まさに危険が迫っている場合は110番です。[参照]
一方、性的な発言など職場環境上のセクハラについて会社の対応や雇用上の解決を求める場合は、勤務先の相談窓口や都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が主な相談先になります。[参照]
最も大切なのは「生活安全課の担当なのか分からないから相談しない」という状態にしないことです。性的な嫌がらせの中に身体への接触、脅迫、性行為の強要、ストーカー行為などが含まれているなら、「セクハラ」という一言だけで片付けず、具体的に何をされたのかを伝えて警察や専門窓口へ相談することが重要です。