右折車との衝突で直進車が歩行者を死亡させたら誰の責任?大津園児死傷事故から考える過失と交差点の交通ルール

交差点で右折車と直進車が衝突し、そのはずみで直進車が歩道へ飛び出して歩行者を死傷させた場合、「実際にはねた直進車と、事故のきっかけを作った右折車のどちらに責任があるのか」という疑問が生じます。

この問題を考えるうえで代表的なのが、2019年5月に滋賀県大津市で発生した保育園児死傷事故です。右折する乗用車と対向方向から来た直進車が衝突し、衝突された直進車が歩道上で信号待ちをしていた保育園児の列へ突っ込み、園児2人が死亡、園児と保育士14人が重軽傷を負いました。[参照:警察庁 犯罪被害者白書]

交通事故の法的責任は、単純に「最後に被害者へ衝突した車はどちらか」だけで決まりません。各運転者にどのような注意義務があり、どの行為が事故を発生させ、その結果を回避できたのかという因果関係と過失が重要になります。

大津園児死傷事故では何が起きたのか

警察庁が公表している事故概要によると、2019年5月8日午前10時14分、大津市内の信号交差点で、右折レーンへ進入した乗用車が対向方向から直進してきた軽乗用車と衝突しました。その結果、衝突された軽乗用車が交差点角の歩道上で信号待ちをしていた保育園児の列へ突っ込みました。

物理的に園児の列へ突っ込んだのは直進していた軽乗用車です。しかし捜査の結果、大津地検は直進車の運転者について刑事責任を問える過失は認め難いとして不起訴とし、右折車の運転者を過失運転致死傷罪で起訴しました。

その後、直進車の運転者については検察審査会でも不起訴相当と判断されたと報じられています。一方、右折車の運転者には禁錮4年6月の実刑判決が言い渡され、判決は確定しました。したがって、この事故について「園児へ直接衝突した車だから直進車にも刑事責任があるはず」と単純には考えられません。

なぜ実際にはねた直進車ではなく右折車の責任が問われたのか

交通事故では、最終的にどの車体が被害者へ接触したかと、誰の過失によって事故が引き起こされたかは別問題です。例えば後ろから追突された車が押し出され、前方の歩行者へ衝突した場合、押し出された運転者が常に事故の責任を負うわけではないことを考えると分かりやすいでしょう。

右折車と対向直進車の関係について、道路交通法では右折車が直進車等の正常な交通を妨害してはならないというルールがあります。つまり、対向する直進車が接近している状況で、その進路を塞ぐように右折を開始することには大きな危険があります。

大津の事故では、右折車が対向直進車の進路へ入ったことで衝突が発生し、その衝撃によって直進車の進行方向が変わり、歩道上の園児へ向かったという連続した事故でした。このような場合には、事故を発生させた原因となる運転行為と死亡・負傷という結果との因果関係が検討されます。

直進車には何の注意義務もないのか

右折車に直進車の進行を妨げてはならない義務があるからといって、直進車には何をしてもよいという意味ではありません。交差点では直進車にも周囲の状況を確認し、安全に進行する義務があります。

例えば直進車が赤信号を無視していた、著しく速度を超過していた、前方を全く見ていなかったなどの事情があり、それが事故発生や結果の拡大につながったのであれば、直進車側にも刑事・民事上の責任が問題となり得ます。

反対に、青信号に従い適正な速度で正常に直進している車に対し、対向右折車が突然進路へ入ってきたようなケースでは、「右折車が飛び出してくることまで予測して、あらかじめ停止できる速度まで落とすべきだった」と当然に評価されるわけではありません。具体的な事故状況から回避可能性を判断する必要があります。

交差点では必ず徐行しなければならない?

「交差点へ入るときは必ず徐行しなければならない」と覚えている人もいますが、法律上はすべての交差点で一律に徐行義務があるわけではありません。この点は事故の責任を考えるうえで重要です。

道路交通法上、例えば信号機がなく左右の見通しがきかない交差点などでは徐行義務があります。警察庁も、信号機がなく左右の見通しがきかない交差点では徐行しなければならないと案内しています。[参照:警察庁 交通ルール資料]

したがって、信号が青で見通しのよい交差点を直進する車について、「交差点なのだから必ず徐行しなければ違反」という理解は正確ではありません。ただし、徐行義務がない状況でも交差点内では周囲の交通や歩行者へ注意し、状況に応じて安全な速度と方法で進行する必要があります。

右折車はなぜ直進車を優先しなければならないのか

対向する直進車と右折車が同時に交差点へ進もうとすると、互いの進路が交差します。そこで道路交通法では、右折車が直進車や左折車の進行を妨げないという基本ルールを設けています。

右折する運転者は、対向車との距離だけではなく、その速度も正しく判断しなければなりません。「まだ遠いから行ける」と判断して右折を開始しても、対向車の速度を読み違えれば正面付近で衝突する危険があります。

警察庁の運転者向け講習資料でも、右折時には対向車の死角や速度の予測違いなどによる直進車との衝突が危険として挙げられています。特に二輪車は実際より遠く、遅く見えることもあるため、右直事故には注意が必要です。[参照:警察庁 運転者講習資料]

「直接ぶつかった人=法的な加害者」とは限らない

交通事故を理解するときに重要なのが、物理的な接触と法的な責任を分けることです。複数台が関係する事故では、最終的に歩行者へ衝突した車の運転者が事故を避けられない状態へ追い込まれていた可能性があります。

例えばA車がB車へ衝突し、その衝撃でB車が歩道へ押し出されて歩行者へ衝突したとします。この場合、B車の運転者が正常に運転していて衝突後の進路を制御する時間も方法もなかったのであれば、B車が歩行者へ接触したという事実だけでB車の運転者に過失があるとはいえません。

一方、B車にも速度超過や前方不注意などがあり、その過失が事故や被害拡大へ影響していたなら話は変わります。誰の車が接触したかではなく、それぞれの運転者が事故を予見・回避できたかを具体的に調べる必要があります。

刑事責任と民事上の過失割合は同じではない

交通事故では「刑事責任」と「民事上の損害賠償」を分けて考える必要があります。刑事事件では、運転者に犯罪として処罰できる過失が認められるかが問題になります。一方、民事では被害者の損害を誰がどの範囲で負担するかが問題となります。

そのため、一般的な右直事故について示される「右折車○%、直進車○%」という過失割合を、そのまま刑事責任へ当てはめることはできません。また一般的な過失割合は出発点にすぎず、信号、速度、右折方法、交差点への進入時期などによって修正されます。

さらに、大津の事故のように第三者である歩行者が被害を受けたケースでは、単純な「右折車対直進車」の車両損害についての割合だけでは説明できません。個別事故について責任を判断するときには、実況見分、ドライブレコーダー、信号状況、速度解析などの証拠が重要になります。

大津の事故から運転者が学べること

大津の事故では園児たちは歩道上で信号待ちをしていました。交通ルールを守っていても、車同士の事故に巻き込まれることがあるという極めて痛ましい事例です。警察庁もこの事故を犯罪被害者支援に関する資料の中で取り上げています。

直進側の運転者にとっては、青信号や優先関係があるからといって「相手は絶対に出てこない」と考えず、対向右折車の動きを予測する防衛運転が事故回避につながります。法律上の優先と、現実の安全確保は別だからです。

右折側ではさらに慎重な判断が必要です。「対向車より先に行けそう」という数秒の判断ミスが、衝突した2台だけではなく、歩道や横断歩道にいる第三者を巻き込む重大事故につながる可能性があります。右折では対向車が確実に通過するまで待つという余裕が重要です。

まとめ:交通事故の責任は「最後にはねた車」だけでは決まらない

2019年の大津市の保育園児死傷事故では、右折車と直進車が衝突し、そのはずみで直進車が歩道上の園児の列へ突っ込み、園児2人が死亡し14人が重軽傷を負いました。物理的に園児へ衝突したのは直進車でしたが、直進車の運転者は刑事責任を問える過失が認め難いとして不起訴となり、検察審査会でも不起訴相当と判断されました。

交通事故の法的責任は「どの車が最後に被害者へ接触したか」ではなく、各運転者にどのような注意義務違反があり、その行為と事故結果にどのような因果関係があったのかによって判断されます。

また「交差点では直進車も必ず徐行」というわけではありません。ただし優先関係や青信号があっても事故そのものを防いでくれるわけではないため、直進側は右折車の飛び出しを予測し、右折側は直進車の進行を妨げないことを徹底することが、同様の事故を防ぐうえで重要です。

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