交通事故の民事裁判で和解案が何度も延期されたら?待つしかないのか・上申書・忌避申立て・裁判所への申入れを解説

交通事故の損害賠償請求訴訟では、裁判官が双方の主張・証拠を踏まえて和解を勧め、具体的な和解案を提示することがあります。しかし、裁判所から「○日までに和解案を提示する」と伝えられたのに、その予定が何度も延期されると、当事者にとって大きな精神的負担になります。

民事訴訟では、裁判所は訴訟の途中でいつでも和解を試みることができますが、裁判官が予告した特定の日までに必ず和解案を提示しなければならないという一般的な法定期限があるわけではありません。そのため延期自体は起こり得ますが、何度も具体的な期限を示しながら履行されない状態が長期間続くのであれば、代理人弁護士を通じて進行予定を確認することには十分な合理性があります。[参照:裁判所・民事訴訟]

一方、上申書、裁判所への申入れ、裁判官の忌避は性質がまったく異なる手段です。特に忌避は「進行が遅い」という理由だけで簡単に認められる制度ではありません。感情的に手続きを選ぶのではなく、現在の訴訟段階と目的を整理して対応することが重要です。

和解案の提示が延期されることは民事裁判であり得る

裁判上の和解は、当事者が互いに譲歩して紛争を終了させる制度です。裁判所の資料でも、訴訟係属中はいつでも和解を試みることができ、複雑な事件では双方が納得できる着地点を探すため何度も調整することがあると説明されています。[参照:裁判所・裁判官の仕事]

交通事故訴訟では、過失割合だけでなく、治療経過、後遺障害、逸失利益、休業損害、慰謝料、既払金など多数の項目を検討することがあります。夫婦2人が同じ事故で負傷している事件なら、それぞれについて損害額を計算する必要もあり、裁判官が和解案を作成するまで時間を要する場合はあります。

ただし、裁判官から具体的な期日を何度も示され、その都度何の説明もなく延期されることが「通常の進行」とまでいえるかは別問題です。裁判所自身も、第一審訴訟について2年以内のできるだけ短い期間で終局させることを目標とする「裁判の迅速化に関する法律」を公表しています。これは個々の事件について2年で必ず終了させる法的期限ではありませんが、長期化を当然視する制度でもありません。[参照:裁判の迅速化に関する法律]

原告側は本当に「待つしかない」のか

和解案そのものを裁判官に強制的に作らせる手続は通常ありません。その意味では、和解案の作成を裁判官が進めている間、当事者が直接その内容や完成日を命令することはできません。

しかし、何もせず無期限に待つことしかできないわけでもありません。代理人弁護士を通じて、「和解案提示の見込み時期」「和解案の提示が難しい場合は今後判決に向けてどのように進行する予定か」「次回期日を指定できないか」といった訴訟進行について確認を求めることは考えられます。

特に重要なのは、和解案を待ち続けること自体が目的にならないようにすることです。和解はあくまで訴訟を終了させる一つの方法で、合意できなければ最終的には判決による解決があります。裁判所の公式案内でも、民事訴訟は最終的に判決によって紛争を解決する手続であり、途中で話合いによる和解も可能と説明されています。

上申書を出すと裁判官の心証が悪くなる?

上申書は、当事者側から裁判所へ事情や希望などを伝えるために使われる書面ですが、どのような内容でも訴訟進行を変更させる法的効力を持つわけではありません。また、事件に関する主張・立証を行う正式な準備書面とは目的が異なる場合があります。

「長期間和解案を待っており精神的負担が大きいので、今後の進行予定を明らかにしてほしい」というように、客観的な経緯と進行上の希望を冷静に伝えることと、裁判官を非難・攻撃することは別です。適切な訴訟活動をしたというだけで、それを理由に裁判官が法律や証拠を離れて不利な判決をすることが許されるわけではありません。

もっとも、実務上どのような表現・タイミングで提出するのが効果的かは事件ごとに異なります。代理人弁護士が「現段階では書面を出すより進行確認にとどめたい」と判断すること自体はあり得ます。重要なのは単に「心証が悪くなるから何もしない」で終わらせず、提出するメリット・デメリットと、代わりに何をするのかまで代理人から説明を受けることです。

裁判官の忌避申立ては「遅い」という理由だけではハードルが高い

民事訴訟法上、裁判官について「裁判の公正を妨げるべき事情」がある場合、当事者は忌避を申し立てることができます。しかし、この制度は担当裁判官への不満を理由に自由に交代を求められる仕組みではありません。

裁判所の公表資料では、「裁判の公正を妨げるべき事情」とは、通常人から見て、裁判官と事件との関係などから偏った不公平な裁判が行われると懸念させる客観的事情を意味すると紹介されています。単に訴訟指揮に納得できない、和解案の提示が遅い、期待した説明がない、といった事情だけで当然に該当するわけではありません。[参照:裁判所]

また、忌避申立てをすると、その申立て自体の審理が必要になる場合があり、かえって訴訟の進行に時間がかかる可能性もあります。したがって、和解案の延期だけを理由に最初から忌避を選ぶより、まず訴訟進行について正式に確認する方法を検討するのが一般的です。

裁判所所長への苦情と訴訟上の申立ては別物

裁判所の司法行政上の対応について意見や苦情を申し出ることと、担当裁判官が個別事件でどのような和解案・判決を出すかは区別する必要があります。裁判所長などが、係属中の事件について担当裁判官に「この金額で和解案を出しなさい」「原告を勝たせなさい」と指示する制度ではありません。

そのため、苦情を申し出たから直ちに和解案が提示されるとは限りません。一方、連絡や事務処理、訴訟の進行状況について長期間合理的な説明が得られない場合に、司法行政上の窓口へ事情を伝えることを直ちに不当な行為と考える必要もありません。

裁判記録を閲覧することについても、事件当事者が認められた手続に従って記録を確認すること自体は通常の権利行使です。記録閲覧をしたというだけで、事件の結論を不利に扱われるべきものではありません。

弁護士から「方法がない」と言われたらセカンドオピニオンも選択肢

代理人弁護士が事件内容を最も詳しく把握しているため、まずは現在の代理人へ具体的に説明を求めることが大切です。「待つしかない」と言われた場合でも、「次にいつ裁判所へ確認する予定か」「和解案がさらに出なければ判決に向けた進行を求められるか」「上申書を出さない具体的理由は何か」などを確認できます。

それでも見通しや選択肢について十分な説明が得られない場合は、交通事故訴訟や民事訴訟の経験が多い別の弁護士へ、現在の訴訟資料を持参してセカンドオピニオンを求める方法があります。これは現在の弁護士を直ちに解任することとは別です。

例えば、訴状・答弁書・準備書面、証拠説明書、後遺障害資料、これまでの期日経過、裁判所から和解案について伝えられた日付を一覧にして相談すれば、「この段階なら通常どのような進行が考えられるか」という第三者の評価を得やすくなります。

今後の対応は「和解案を催促する」より進行を明確にする

実務的には、単に「早く和解案を出してください」と繰り返すより、今後の訴訟進行を明確にしてもらうことを目的にする方法があります。

例えば代理人を通して、「和解案提示予定日が複数回延期されており当事者の負担が大きい。和解案を提示する予定があるのであれば具体的な見通しを示してほしい。提示が難しいのであれば、判決を含めた今後の手続を進めてほしい」という趣旨を、適切な方法で裁判所へ伝えることが考えられます。

これは裁判官を攻撃することとは異なります。訴訟を終局へ向けて進めたいという当事者の希望を示すものです。ただし実際にどの書面・期日で伝えるべきかは、記録を確認できる代理人弁護士、またはセカンドオピニオンを受ける弁護士と検討するのが安全です。

まとめ:何度も延期されても無期限に黙って待つしかないわけではない

交通事故の民事訴訟で裁判官の和解案が予定より遅れること自体はあり得ます。複雑な損害計算や和解条件の検討に時間がかかる事件もあります。しかし、具体的な提示日が何度も示されながら繰り返し延期されている場合、当事者が進行の見通しを求めることは不自然ではありません。

原告側に和解案の提示日を強制する直接的な手段はありませんが、「ただ黙って待つ」以外にも、代理人を通じた進行確認、適切な上申、判決に向けた進行の希望、別の弁護士によるセカンドオピニオンなどを検討できます。

一方、裁判官の忌避は「和解案が遅い」という不満を解決する一般的な制度ではなく、裁判の公正を妨げる客観的事情が必要となるため慎重な検討が必要です。裁判所長等への苦情も、個別事件の和解額や判決内容を変更させる手続ではありません。

したがって現実的には、これまで「いつまでに出す」と説明された日付と延期経過を時系列で整理し、現在の代理人へ今後の具体的な対応期限を確認したうえで、必要なら民事訴訟経験の豊富な別の弁護士へ記録を見せて意見を求めるのが有力です。長期化による負担を理由に訴訟の進行を求めることと、裁判官を非難することは別の行為として考えることが大切です。

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