夜間に車を運転していると、歩道があるにもかかわらず車道を歩いている人に突然気付くことがあります。暗い服装だったり、車道の中央寄りを歩いていたりすれば、運転者にとって非常に危険な状況です。
こうした事故では「歩行者にも交通ルール違反があるのだから、運転者は責任を負わなくてよいのではないか」という疑問が生じます。しかし日本の交通事故における責任は、歩行者か運転者かという立場だけで自動的に決まるものではありません。
歩行者に落ち度があったとしても、それだけで運転者の刑事・行政・民事責任が一律にゼロになる制度ではありません。一方で、歩行者側の危険な行動は事故原因や予見可能性、回避可能性、民事上の過失割合などを判断する重要な事情になります。
歩道がある道路では歩行者にも通行ルールがある
道路交通法では歩行者にも交通方法が定められています。歩道または十分な幅員を持つ路側帯と車道の区別がある道路では、原則として歩道等を通行しなければならず、一定の例外が認められています。
したがって「歩行者なら道路のどこを歩いてもよい」というわけではありません。歩道が利用できるにもかかわらず、特段の事情なく車道中央付近を歩いていたのであれば、事故の状況を評価する際に歩行者側の行動として考慮され得ます。
ただし、歩行者が交通ルールに反していたことと、衝突した運転者が当然に無責任になることは別問題です。事故では双方の行動や道路状況を具体的に調べることになります。
運転者には安全運転義務があるため自動的な免責にはならない
道路交通法には運転者の安全運転義務があります。運転者には道路、交通、車両等の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することが求められます。
そのため「歩道があるから歩行者は絶対に車道へ出てこない」と想定して前方確認をしなくてよいわけではありません。夜間であればヘッドライトの照射範囲、道路の明るさ、速度、見通しなども事故時の判断材料になります。
反対に、運転者が適切に前方を確認し、適正な速度で走行していたにもかかわらず、通常では予測しにくい状況で歩行者が突然進路上へ現れ、物理的に回避する時間がなかったというケースもあり得ます。責任の有無は「車と歩行者が衝突した」という結果だけではなく、運転者が事故を予見・回避できたのかを含めて個別に判断されます。
人身事故では刑事・行政・民事の3つを分けて考える
交通事故の責任を理解するには、「刑事責任」「行政上の処分」「民事責任」を分ける必要があります。同じ事故でも、それぞれ別の制度と基準で扱われます。
| 種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 刑事責任 | 過失運転致死傷などの犯罪が成立するか |
| 行政上の処分 | 違反点数や事故に伴う付加点数、免許停止・取消しなど |
| 民事責任 | 治療費、休業損害、慰謝料などの損害賠償 |
例えば歩行者が車道の不適切な場所を歩いていたとしても、運転者側にも前方不注視や速度など事故につながる過失が認められれば、刑事責任等が問題になる可能性があります。
一方、歩行者の行動が極めて予測困難で、運転者に事故を回避できる可能性がなかったと評価されれば、運転者側の過失そのものが否定されることもあり得ます。つまり「歩行者事故だから必ず運転者が処罰される」という仕組みでもありません。
民事責任では歩行者側の過失も考慮される
損害賠償についても、歩行者が負傷したから運転者側が常に損害の100%を負担するとは限りません。事故について被害者側にも過失があれば、過失相殺によって賠償額へ反映されることがあります。
例えば歩道が設けられている道路なのに歩行者が車道を歩いていた、夜間に道路を横断した、車の直前へ飛び出した、といった事情は事故態様によって過失割合の判断材料となります。ただし「歩道を歩かなかったから歩行者100%」と機械的に決まるわけではありません。
道路の幅、照明、時刻、交通量、歩行者の位置や動き、車の速度、発見可能な地点、ブレーキ操作など、多数の事情を総合して判断します。ドライブレコーダーの映像が重要な証拠になるのはそのためです。
救護・警察への連絡をすれば事故そのものの責任が消えるわけではない
交通事故が発生した場合、道路交通法72条により、事故に関係した車両等の運転者には直ちに停止し、負傷者を救護し、道路上の危険を防止するなど必要な措置を取る義務があります。また警察への報告も必要です。[参照:警察庁 交通の方法に関する教則]
したがって人をはねた場合には、車を停止し、安全を確保したうえで119番通報など必要な救護を行い、警察へ事故を報告することが基本です。警察庁も交通事故時には負傷者の救護や警察への報告を行うよう案内しています。
ただし、救護と警察への連絡をきちんと行ったから、衝突事故についての刑事・行政・民事責任まで自動的になくなるわけではありません。救護義務等を果たしたかという問題と、そもそもの事故について運転者に過失があったかという問題は分けて考える必要があります。
逃げれば「元の事故」とは別に重大な問題になる
事故後に負傷者を放置して現場を離れれば、救護義務違反、いわゆるひき逃げが問題になります。元の衝突について過失があるかどうかとは別に、事故後に必要な措置を取らなかった行為が問題になるわけです。
警察庁の交通教則でも、交通事故が起きた場合には直ちに車を停止し、負傷者を救護するとともに警察官へ事故を報告するよう示されています。[参照:警察庁 交通の方法に関する教則]
事故直後は動揺しやすいものですが、「相手が悪そうだから立ち去ってよい」と自己判断するのは危険です。歩行者側に重大な交通ルール違反があると思われる場合でも、停止・救護・警察への報告は別問題として対応する必要があります。
「歩行者が車道にいたら運転者は一切責任なし」という法改正には問題もある
歩行者側に明らかな危険行為がある事故で、運転者だけが一方的に責任を負うことへの疑問は理解しやすいものです。しかし「歩道がある道路で車道にいた歩行者との事故は運転者を一律免責」とすると、別の問題が生じます。
例えば工事で歩道を通れない人、道路を横断している人、歩道上の障害物を避ける人など、歩行者が正当な理由で一時的に車道へ出る場面があります。また事故直前に歩行者を十分確認できたのに、運転者がスマートフォンを見ながら高速で走行していたようなケースまで無条件で免責することは、安全確保の観点から合理的とは言いにくいでしょう。
そのため現行制度のように、歩行者側の行動と運転者側の行動をそれぞれ調べ、事故ごとに過失を判断する仕組みには一定の合理性があります。一方で、歩行者側の危険行為についても適切に評価することが重要です。
夜間に車道上の歩行者を発見したらどうするか
深夜は交通量が少ないため速度感覚が狂いやすい一方、黒っぽい服を着た歩行者や自転車の発見が遅れることがあります。街灯が少ない道路では特に注意が必要です。
歩行者を発見したら、まずアクセルを戻して十分な側方間隔を確保できる速度まで落とします。対向車などのため安全な間隔を取れない場合は、無理にそのまま通過せず減速・停止できる態勢を取ることが重要です。
また夜間は、対向車や先行車がいないなど道路交通法上許される状況ではハイビームを適切に活用することも早期発見につながります。深夜だから歩行者はいないと考えるのではなく、「見えにくい歩行者がいるかもしれない」と想定して走ることが事故防止につながります。
事故にならなかった場合もヒヤリハットを生かす
衝突寸前だったものの事故にならなかった場合、法的責任の問題とは別に、その経験を今後の運転へ生かすことが重要です。「あと1秒発見が遅かったら」という経験は、夜間の速度や視線の置き方を見直す材料になります。
ドライブレコーダーがあるなら、安全な場所へ停車した後や帰宅後に映像を確認すると、自分が歩行者を認識できた地点、車速、道路照明、歩行者の服装や位置などを客観的に振り返れます。自分の感覚では突然現れたように感じても、映像ではもう少し早く確認できる場合もあれば、本当に発見困難だったことが分かる場合もあります。
危険な歩行者に遭遇した経験を「相手が悪かった」で終わらせるより、次回同じ状況でも確実に止まれる運転へつなげるほうが実際の事故防止には有効です。
まとめ:歩行者の違反と運転者の責任は別々に判断される
歩道があるにもかかわらず歩行者が車道を危険な形で歩いていた場合、その行動は事故原因や民事上の過失割合などを判断する重要な事情になります。しかし、それだけを理由に車やバイクの運転者の刑事・行政・民事責任が自動的にすべてゼロになるわけではありません。
逆に、歩行者との事故なら運転者が必ず責任を負うというわけでもありません。運転者が適切な速度・方法で運転していたか、歩行者をいつ発見できたか、回避可能だったか、歩行者がどのように車道へ入ったかなど、具体的な事故状況によって判断されます。
そして実際に接触事故が起きた場合には、どちらに原因があると思っても、まず停止して負傷者を救護し、警察へ報告することが必要です。事故原因についての責任と事故後の救護義務を切り分けて理解しておくことが、運転者にとって重要です。