金銭の貸し借りを伴う交際関係が「ロマンス詐欺ではないか」と申告され、警察の捜査対象になるケースがあります。しかし、金銭を返せていないことや、相手へ事実と異なる説明をしたことがあるという事情だけで、直ちに詐欺罪が成立するわけではありません。一方で「返すつもりだった」と主張するだけで必ず民事問題になるとも限らず、実際のメッセージ、金銭を受け取った経緯、当時の返済能力や行動などから総合的に判断されます。
また、被害者と返済や示談について話し合ったからといって捜査が自動的に終了するわけではありません。警察から連絡が来る可能性がある段階では、相手へ何度も直接接触して説得するより、刑事事件を扱う弁護士を窓口にして証拠を保全し、事実関係を時系列で整理することが重要です。
特にすでに警察が被害者から事情を聴いている段階では、メッセージの削除、口裏合わせと受け取られかねない連絡、突然の訪問などは避けるべきです。この記事では、詐欺罪の基本から示談、被害届、任意聴取、逮捕・家宅捜索、警察から連絡が来る前に準備できることまで整理します。
金銭トラブルと詐欺罪は同じではない
交際相手からお金を借り、その後返済できなくなったとしても、それだけで当然に詐欺罪になるわけではありません。通常の貸金トラブルは民事上の債務問題となることがあります。
刑法上の詐欺では、相手を欺いて財物を交付させるなどの要件が問題になります。そのため重要になるのは、お金を受け取る時点で何を伝え、何を隠し、それによって相手がお金を渡したのかという経緯です。
例えば借入時に住所、職業、収入、資金用途、返済予定などについて事実と異なる説明があった場合、それだけで結論が決まるわけではありませんが、なぜその説明をしたのか、その情報が相手の金銭交付の判断にどの程度関係したのかなどが検討材料になる可能性があります。
したがって「古い住所を伝えた=詐欺」「返済した=詐欺ではない」という単純な公式では判断できません。個別事件について犯罪成立の見通しを判断できるのは、メッセージや送金記録などを確認した弁護士や捜査機関です。
被害届と告訴は同じものではない
刑事事件を理解する際には「被害届」と「告訴」を区別することも重要です。法務省は、被害者は被害届を提出して被害を申告できるほか、捜査機関へ犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める「告訴」を行うことができると説明しています。[参照:法務省 捜査段階での被害者支援]
「処罰を求めます」といった意思を確認する書類へ署名したという話がある場合も、第三者から聞いた説明だけで、その書類が被害届なのか、告訴に関係する書類なのか、供述調書なのかを断定することはできません。
また警察庁は、犯罪被害者等からの被害の届出について、内容が明白な虚偽または著しく合理性を欠く場合を除き、迅速・確実な受理に努めるとしています。[参照:警察庁 犯罪被害者白書]
「被害届を取り下げれば事件終了」とは限らない
詐欺罪については、被害者が処罰を希望しなければ絶対に起訴できない「親告罪」として扱われる犯罪ではありません。そのため、被害者との間で金銭問題が解決したり、被害者の処罰感情が弱くなったりしたとしても、それだけで捜査が法的に必ず終了するとは限りません。
法務省の資料でも、被害申告や告訴は捜査の端緒となる一方、告訴が訴訟条件となるのは名誉毀損や器物損壊などの親告罪であることが説明されています。[参照:法務省 刑事司法における被害者への配慮]
したがって「返金する代わりに被害届を出さない」「取り下げてもらえば絶対に逮捕されない」といった条件を前提に行動するのは避けたほうが安全です。返済や示談は重要な事情になり得ますが、刑事手続を完全にコントロールできる契約ではありません。
示談を試みたことだけで逮捕リスクが上がるとは限らない
刑事事件が疑われている段階で被害者へ謝罪し、被害弁償や返済について話し合うこと自体が、当然に犯罪や逮捕理由になるわけではありません。示談や被害弁償は刑事事件でも行われています。
しかし、すでに捜査が始まっている場合には示談の方法が非常に重要になります。相手の自宅や入院先へ繰り返し訪問したり、「被害届を取り下げてほしい」「警察にはこう説明してほしい」と働きかけたりすると、本来は謝罪目的でも、相手や家族から圧力と受け止められる可能性があります。
特に相手が入院中であったり精神的に不安定であったり、家族が接触に慎重になっていたりする場合には、直接交渉を続けることは避けたほうが無難です。今後の示談・返済交渉は弁護士を通すことが安全性の高い方法です。
警察から連絡が来る前に最優先で行いたいこと
すでに警察が被害者から事情を聴いているのであれば、「いつ警察が来るのか」を予想することより、自分側の客観的資料を整理することのほうが重要です。
具体的には次のような資料を削除せず、そのまま保存します。
- 相手とのLINE・SNS・メールなどの全履歴
- 出会ってから現在までのやり取り
- 金銭を求めた際のメッセージ
- 借入理由や返済について説明した記録
- 銀行振込・送金・返済の記録
- 実際に返済した金額と日時
- 収入・勤務・生活状況を確認できる資料
- 住所について説明した記録
- 示談交渉時のやり取り
- 作成した示談書・返済案などのコピー
自分に不利に見えるメッセージも削除してはいけません。都合の悪い部分だけ消すと、後から経緯を正確に説明できなくなるうえ、証拠を意図的に消したのではないかという別の疑念を招くおそれがあります。
「返す意思があった」ことは言葉ではなく当時の資料から整理する
詐欺の疑いに対して「最初から騙すつもりはなかった」と説明したい場合、現在そう主張するだけではなく、金銭を受け取った当時の客観的事情を弁護士と整理することが重要です。
例えば借入当時に具体的な返済予定を伝えていた、実際に一部返済していた、収入を得るために仕事をしていた、返済について継続的に連絡していた、といった事実が存在するのであれば、それを裏付ける記録を保存します。
一方、事実と異なる住所などを伝えた経緯についても隠すのではなく、「いつ・何を・なぜ伝えたのか」を時系列にします。その説明が法的にどう評価されるかは自己判断せず、弁護士へ資料をすべて見せて検討してもらうのが適切です。
警察は必ず任意聴取してから逮捕・家宅捜索するわけではない
「まず電話があり、任意で事情聴取され、それから必要なら逮捕される」という決まった順番があるわけではありません。裁判所は、捜査では被疑者を逮捕したり、住居などを捜索して証拠品を差し押さえたりする場合があり、逮捕や捜索・差押えには原則として裁判官の令状が必要だと説明しています。[参照:裁判所 刑事事件の手続]
一方で、すべての被疑者が逮捕されるわけでもありません。法務省も、捜査には被疑者を逮捕して行う場合と、逮捕せずに行う場合があると説明しています。[参照:法務省]
したがって、警察が被害者宅へ行ったという事実だけから「週明けに逮捕される」「家宅捜索される」と予測することはできません。逆に「先に任意出頭の電話が必ず来る」と考えることもできません。
警察から電話や訪問があったらどうする?
警察から連絡があった場合、担当警察署、部署、警察官の氏名、電話番号、事件について何を求められているのか、出頭日時などを正確に記録します。電話の相手が本当に警察官か不安なら、警察署の代表番号を公式情報から確認して折り返す方法もあります。
すでに弁護士へ相談しているのであれば、その場で詳しい事実関係を長時間説明し始める前に担当弁護士へ連絡し、出頭や取調べへの対応について助言を受けます。刑事事件を扱う弁護士であれば、事件の具体的状況を踏まえて対応方針を検討できます。
警察に対して嘘をついたり、証拠となるスマートフォンのデータを消したり、相手へ連絡して説明を合わせてもらったりすることは避けます。分からないことや記憶が曖昧なことを推測で断定せず、客観的な記録と照らして正確に説明する姿勢が重要です。
家族への影響が心配なら弁護士に具体的に伝える
刑事事件では本人が「逮捕そのものより家族に知られたり迷惑をかけたりすることが怖い」と感じることもあります。その事情も弁護士へ率直に伝えて構いません。
例えば家族と同居していること、勤務先への影響、扶養家族がいること、現在の住居を離れる意思がないことなど、生活状況を弁護士へ正確に説明します。弁護士はそれらを含め、具体的事件の状況から身柄事件となる可能性や今後の対応を検討できます。
ただし「家族に迷惑をかけたくないから警察へ住所を知らせない」「連絡を避ける」といった行動は逆効果になり得ます。現在の住所や連絡先を含め、捜査への対応方法は担当弁護士と相談して決めることが重要です。
今の段階で避けたい行動
捜査が始まっている可能性がある場合、焦って状況を自分で収束させようとすると、かえって説明が複雑になることがあります。特に相手が「会いたい」と言っている場合でも、刑事事件と示談交渉が並行しているなら直接接触には慎重になるべきです。
相手への突然の訪問、被害届・告訴を取り下げるよう繰り返し求めること、警察へ話す内容を指定すること、メッセージや端末データの削除、事実と異なる説明を新たに作ることは避けましょう。
返済を続けたい場合も、「毎月いくら返すか」「振込先」「完済予定日」「示談条件」を弁護士経由で書面化できないか相談します。直接交渉を続けるより、第三者である弁護士を入れたほうが双方にとって記録が明確になります。
まとめ:捜査中は直接交渉を増やすより証拠保全と弁護士への相談を優先する
ロマンス詐欺や詐欺罪として捜査されている場合、金銭を借りたこと、住所などについて不正確な説明をしたこと、返済が遅れたことの一つだけで犯罪成立を断定することはできません。金銭を受け取った時点の説明、意図、返済に関する行動、相手がお金を渡した理由などを含めて個別に検討されます。
また被害弁償や示談を試みたことだけで「逮捕リスクを高めた」と決めつける必要はありません。ただし、すでに警察が関与している状況では、今後の直接接触が誤解を招く可能性があります。これ以上一人で被害者や家族を説得しようとせず、刑事事件を扱う弁護士を窓口にすることが重要です。
警察から連絡が来る前にできる最も現実的な準備は、メッセージや送金履歴を一切削除せず保存し、出会いから借入、返済、被害申告、示談交渉までを日付順に整理して弁護士へ渡すことです。逮捕や家宅捜索が行われるかは外部から予測できませんが、事実と証拠を整理し、警察から連絡があった場合の対応を弁護士と事前に決めておくことで、不用意な行動を避けやすくなります。