銀行から突然、「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律にもとづき、預金等債権の消滅手続を開始する」といった通知が届くと、使っていない口座で残高もない場合は「そのまま放置してよいのでは」と考えたくなるかもしれません。
しかし、この通知は単なる休眠口座の整理ではありません。いわゆる「振り込め詐欺救済法」にもとづき、その口座が詐欺などの犯罪に利用された疑いがあるとして、銀行が口座名義人の預金に対する権利を消滅させる手続へ進んでいることを意味します。金融庁も、犯罪利用口座であると疑うに足りる相当な理由がある場合に、この手続が行われると説明しています。[参照]
残高がほぼゼロであれば失う預金そのものは小さい可能性がありますが、自分にまったく心当たりがないのであれば、通知を放置せず銀行へ確認することが重要です。
「預金等債権の消滅手続」とは何をする手続?
振り込め詐欺救済法の正式名称は、「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」です。振り込め詐欺だけでなく、投資詐欺、副業詐欺、SNS型詐欺など、振込みを利用して財産をだまし取る犯罪の被害回復に利用されます。
金融機関が、捜査機関からの情報、被害状況、口座の取引状況、名義人への確認などを踏まえ、「犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由がある」と判断すると、取引停止などの措置を行い、預金保険機構へ債権消滅手続の公告を求めます。[参照]
預金保険機構の公告後、一定期間内に口座名義人などから権利行使の届出がなければ、対象となる預金等債権が消滅します。預金保険機構も「権利行使の届出」を、口座名義人などが債権消滅手続を止めるための届出と説明しています。[参照]
通知を放置するとどうなる?
法律上の基本的な流れでは、公告で定められた権利行使の届出期間内に届出や強制執行などがなければ、対象となる預金等債権は消滅します。この届出期間は法律上60日以上設けられます。[参照]
簡単にいえば、対象口座に1万円残っていて、正当な口座名義人であるにもかかわらず必要な手続をしないまま期間が経過すれば、その預金について銀行へ払い戻しを請求する権利を失う可能性があります。
残高が0円またはごく少額であれば、消滅する預金の経済的価値はほとんどない場合もあります。なお、消滅した預金等債権の額が1,000円未満なら、法律にもとづく被害回復分配金の支払手続は行われません。[参照]
ただし、「残高がないから何も問題がない」という意味ではありません。なぜ自分名義の口座が犯罪利用口座として扱われる状況になったのかを確認することのほうが重要です。
使っていない口座なのに通知が来た場合は特に確認が必要
長期間利用していなかった口座にこの通知が届いた場合、まず考えたいのは、その口座が自分の知らないところで利用されていなかったかという点です。インターネットバンキングのID・パスワードが第三者に知られた、キャッシュカードや通帳を紛失した、過去に他人へ口座情報を渡したなどの事情がないか振り返ります。
たとえば「数年前から使っていなかったので残高はゼロだと思っていた」という場合でも、その後に第三者から入出金が行われていた可能性があれば事情は変わります。通知に記載された対象口座と、自分が認識している口座番号が一致しているかも確認しましょう。
なお、通知が届いたこと自体だけで「口座名義人が犯罪をした」と確定するわけではありません。振り込め詐欺救済法の手続は、金融機関が犯罪利用口座であると疑うに足りる相当な理由があると判断した段階で進められる制度だからです。
心当たりがないなら銀行に連絡したほうがよい
口座を犯罪に利用した覚えがなく、第三者にも渡していないのであれば、通知を無視するのではなく、金融機関へ連絡して事情を確認するのが基本です。特に「自分の通常の取引が誤って犯罪利用と判断されている」「不正アクセスによって勝手に使われた」といった可能性がある場合は、その旨を伝える必要があります。
預金保険機構によれば、正当な口座名義人などが債権消滅手続を止めるために「権利行使の届出」を行う仕組みがあります。実際に届出が必要か、必要書類や期限がいつかについては、通知を出した金融機関へ確認しましょう。[参照]
一方、本当に自分が使っていない口座で残高もなく、その口座について今後権利を主張する意思がない場合でも、少なくとも「なぜ対象になったのか」を一度銀行へ確認しておくと安心です。
手紙が本物かどうかも確認する
銀行を名乗る郵便物が届いた場合、そこに記載された電話番号へ反射的に連絡する前に、銀行の公式ウェブサイトやキャッシュカード裏面などから正規の問い合わせ先を確認する方法が安全です。
本物の振り込め詐欺救済法にもとづく債権消滅手続であれば、預金保険機構の「振り込め詐欺救済法に基づく公告」で対象口座の公告状況を確認できる場合があります。[参照]
通知を口実に暗証番号、インターネットバンキングのパスワード、ワンタイムパスワードなどを尋ねられた場合は、その場で伝えず、銀行の公式窓口へ確認してください。
口座を他人に渡したことがある場合は別の注意が必要
もし過去に「使わないから」とキャッシュカードや通帳、インターネットバンキングの情報などを他人へ渡したことがある場合は、単なる銀行手続の問題では済まない可能性があります。
警察庁は、預貯金口座の譲渡について、有償・無償を問わず犯罪となり得ることを注意喚起しています。使わなくなった口座でも、他人へ渡すのではなく金融機関で解約する必要があります。[参照]
また2026年7月には、預貯金通帳等の不正譲渡に対する罰則強化などを含む改正犯罪収益移転防止法の一部が施行されています。[参照] 口座を売った、貸した、他人に管理させたなどの事情がある場合は、安易に自己判断せず、必要に応じて弁護士へ相談することも検討すべきです。
残高ゼロでも今後ほかの口座に影響する可能性は?
債権消滅手続そのものは、公告対象になった預金等債権について行う手続です。そのため、この通知だけから「他銀行を含むすべての口座が自動的に凍結される」と断定することはできません。
しかし金融庁・警察庁は近年、金融機関に対して不正利用口座に関する情報共有や、疑わしい口座に対する取引停止・凍結・解約などの対策強化を求めています。2026年には、不正利用口座に関する金融機関間の情報共有を進める制度整備も行われています。[参照]
したがって、自分にまったく心当たりがないならなおさら、「残高ゼロだから放置」という対応より、銀行へ事情を確認し、不正利用された可能性があるならその記録を残しておくほうが適切です。
まとめ:残高がなくても、心当たりがなければ放置しない
「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」にもとづく預金等債権の消滅手続開始通知は、単に長期間使っていない口座を整理するための案内ではありません。その口座が犯罪に利用された疑いがあるとして、振り込め詐欺救済法上の手続が進んでいることを示します。
何もしないまま権利行使期間が過ぎると、対象となる預金等債権は消滅します。残高がゼロなら金銭的な影響がほとんどない場合もありますが、なぜ自分名義の口座が対象になったのかという問題は残ります。
そのため、まず通知が本物かを銀行の公式窓口で確認し、対象口座、現在の残高、手続理由、権利行使の期限、自分に必要な対応を尋ねるのが安全です。自分の知らない不正利用だった場合はその旨を銀行へ伝え、口座を他人へ譲渡・貸与した事情などがある場合は、必要に応じて警察や弁護士への相談も検討しましょう。