追越し車線を走行しているとき、後続車から車間距離を詰められ、前方には右折待ちで停止している車がいる――この状況で先行車が走行車線へ車線変更し、その後に後続車が右折待ち車へ追突した場合、誰が事故の責任を負うのでしょうか。
ポイントは、単に「最後にぶつかった車だけを見る」のではなく、追突した後続車の車間距離や前方注視と、先行車がどのような意図・タイミングで車線変更したのかを分けて考えることです。
通常の危険回避として安全に車線変更しただけなら、後続車が前方の停止車へ追突した責任まで先行車が当然に負うわけではありません。一方、後続車を停止車へ衝突させることを意図して直前まで進路を隠すなど、意図的・危険な行為があった場合は別の評価になる可能性があります。
基本は追突した後続車の車間距離と前方確認が問題になる
車を運転するときは、前車が急に停止しても追突を避けられるよう、安全な車間距離を確保する必要があります。国家公安委員会の「交通の方法に関する教則」でも、前の車が急に止まっても追突しないよう安全な車間距離を取るよう示されています。[参照]
したがって、前を走る車が通常の方法で車線変更した結果、その先にあった右折待ち車へ後続車が追突したのであれば、まず問題になるのは後続車が十分な車間距離を取っていたか、前方を適切に確認していたかという点です。
たとえば先行車が十分前からウインカーを出し、安全を確認して左側の走行車線へ移ったのに、後続車が極端に車間を詰めていたため停止車を発見しても止まれなかったという状況なら、後続車側の運転が事故原因として強く問題になります。
前の車が避けたからといって追突事故の責任を自動的に負うわけではない
道路を走っていれば、前方の障害物や停止車を避けるために車線変更する場面はあります。安全確認を行い、通常の方法で走行車線へ移ること自体が直ちに違法になるわけではありません。
重要なのは「先行車が避けなければ、後続車も早く停止車に気付けたはずだ」というだけで、先行車に追突事故の責任が発生するとは限らないことです。後続車には先行車の動きに対応できる車間距離を確保し、自ら安全に停止できるよう運転することが求められるからです。
特に後続車があおり運転といえるほど車間距離を詰めていたのであれば、その事情は重要です。警察庁も、あおり運転につながる行為として車間距離不保持を挙げ、十分な車間距離を保つよう呼びかけています。[参照]
ただし「わざと直前まで避けない」場合は話が変わる
注意したいのは、前方の右折待ち車をかなり前から認識していたにもかかわらず、後ろからあおってくる車を懲らしめる目的で、あえて直前まで停止車を隠すように走り、最後の瞬間に自分だけ車線変更するケースです。
このような場合は、単なる危険回避の車線変更とは事情が異なります。車線変更そのものが可能だったとしても、後続車を危険な状況へ追い込む目的があり、その行為と事故との因果関係が認められるかが問題になる可能性があります。
警察庁は、他の車両等の通行を妨害する目的で行う車間距離不保持、急ブレーキ、進路変更禁止違反、安全運転義務違反など一定の行為を妨害運転として取り締まっています。あおられた側であっても、報復として危険な運転をしてよいことにはなりません。[参照]
「直前に車線変更した」という言葉だけでは責任は決められない
実際の事故では、「直前」が何秒前・何メートル前だったのかが非常に重要です。時速60kmなら車は1秒間に約16.7m進みます。3秒なら約50mです。同じ「直前に避けた」という説明でも、実際の距離によって状況は大きく変わります。
また、先行車がウインカーを出していたか、急激なハンドル操作だったか、後続車との車間距離、右折待ち車がいつから見えていたか、後続車の速度、道路の見通しなども判断材料になります。
そのため、事故後に当事者が「前の車がわざと避けた」「いや普通に障害物を避けただけだ」と主張し合うだけでは結論は出ません。ドライブレコーダー映像や周辺の防犯カメラ、車両の位置関係などの客観的証拠が重要になります。
あおられても「仕返し運転」をしてはいけない
後続車に車間距離を詰められると、腹が立って「ギリギリまで障害物を見せずに避けてやろう」「急ブレーキを踏んで驚かせよう」と考える人もいるかもしれません。しかし、これは非常に危険です。
警察庁は、妨害目的で一定の違反行為を行う妨害運転について罰則を設けています。また、警察庁は車間距離不保持だけでなく、急ブレーキ禁止違反や進路変更禁止違反などについても積極的な取締りを行うとしています。[参照]
つまり、「最初にあおってきた相手が悪い」という事情があっても、その後に自分が危険な報復運転をすれば別の問題が生じます。あおり運転への対処と、報復行為の責任は分けて考える必要があります。
あおられたときは事故を起こさせるのではなく安全な場所へ避難する
警察庁は、あおり運転を受けた場合、サービスエリアやパーキングエリアなど交通事故に遭わない安全な場所へ避難し、車外へ出ることなく110番通報するよう案内しています。[参照]
一般道路でも、無理に速度を上げて逃げたり、急ブレーキで威嚇したりするより、安全に進路を譲れる場所があれば距離を取り、危険が続くなら警察へ通報するほうが適切です。
ドライブレコーダーがあれば映像を保存しておきます。あおり運転の有無だけでなく、その後に事故が発生した場合にも、車間距離、速度、車線変更のタイミングなどを確認する重要な資料になります。
まとめ:通常の危険回避なら追突した後続車が中心だが、故意の「罠」は別問題
追越し車線を走行中、前方に右折待ちの停止車があり、先行車が走行車線へ安全に車線変更した後、あおっていた後続車が停止車へ追突した場合、先行車が車線変更したという事実だけで追突事故の責任を負うわけではありません。後続車には十分な車間距離を取り、前方の状況に対応できるよう運転する義務があります。
一方、後続車への報復を目的として、停止車を意図的に直前まで隠し、自分だけ寸前で避けて衝突させようとしたような事情があれば、単純な追突事故とは評価が変わる可能性があります。実際の責任は、車間距離、速度、車線変更の時期、ウインカー、見通し、運転者の行為、事故との因果関係などから個別に判断されます。
あおられている側だから、その後の運転が何をしても免責されるわけではありません。安全に進路を譲る、危険な相手から距離を取る、安全な場所へ避難して110番する、ドラレコ映像を保存するといった方法で対応し、相手を事故に遭わせるような報復運転はしないことが重要です。